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関連展示 1

池上高志「MTM [Mind Time Machine] 」 (新作/YCAM委嘱作品)

[写真] 池上高志「MTM [Mind Time Machine] 」

脳内での時間をめぐるプロセスを体験する。
意識/無意識/記憶の関係を再構築するインスタレーション

本展のテーマ「監視社会と身体」にもとづき、展覧会を拡張する新たな試みとして発表する本作。複雑系科学の研究者、池上高志は、本作を通じて、「主観的時間の自己組織化」という視点から発想された心の時間発展の理論を提示します。その構想は、アメリカの脳生理学者ベンジャミン・リベット(Benjamin Libet)の研究に端を発しています。人の意識を担っている脳が作り出す、時間的「今」の再構成という科学的検証から出発し、認識の光景を組織化する、「意識/無意識/記憶の3つのプロセスのネットワーク」=「脳の主観的な時間のダイナミクスによる映像表現」を展開します。 4機種、計15台のカメラにより、観客の動きを多視点から撮影。その映像データは、独自に開発した複雑系のアイデアを応用したコンピュータプログラムにより、様々に展開・変形されます。その映像は、インスタレーション空間にある、「意識」「無意識」「記憶」に対応する、同期した3面のスクリーンに、リアルタイムで表示されます。また、映像データは、サウンドにも変換されており、3.2チャンネルの音響システムによって出力されます。人間の脳内で起こっている時間の生成/編集のプロセスを、映像とサウンドによって体験できるインタラクティブインスタレーションです。

「主観的時間の自己組織化」
text: 池上高志

人は主観的/内的な時間を持っています。客観的な時間、すなわち物理的な時間は時計で測定できますが、一方、私たちの心の中の時間の流れは客観的には測定できません。「MTM [Mind Time Machine]」は、私たちの心の時間を取り上げ、脳内で起こっている主観的な時間のダイナミクスをエミュレートする装置です。これは、脳内処理に時差があると実証した脳生理学者のベンジャミン・リベットの理論展開にもとづいて発想されています。例えば、手や足に何かの刺激を受けてから、それを意識するまで最大0.5 秒の時間差がありますが、意識はその0.5 秒の遅れを遡り、実際に刺激を受けた瞬間まで時間順序を補正しているというのです。しかし、脳の刺激を受けるところ、体性感覚野を直接刺激してもそれは起こらない。つまり、身体を介した刺激の脳への伝えられ方/ダイナミクスが、主観的「今」の在り様を決定していることになります。本作では、撮影した映像の生成/編集のプロセスにおいて、時間的、空間的に散らばった多数のビジュアルフレーム、また同時に生成されるサウンドフレームによって、そのような主観的な組織化される「今」をモデル化します。核となるプログラムは、カオス(微小な差異を拡大する機構)を内包する神経ネットワーク、さらにそれを組み合わせた上位のネットワークです。このシステムを用い、不安定なフィードバックやカオス的遍歴をもとに、視覚的・聴覚的複雑さを生みだします。複雑系科学のアイデアを中心に、空間における視覚情報のデータフローを自律的に組織化することによって、人の意識の新たなモデル/概念を体験できる作品の提案です。

作家プロフィール
池上高志:コンセプト/ディレクション
大海悠太:プログラミング
石橋 素:プログラミング
渋谷慶一郎:サウンド
evala:サウンド
新津保建秀:ビジュアルアドバイザー
協賛:株式会社アド・サイエンス
協力:東京大学大学院総合文化研究科広域システム系池上高志研究室、ATAK、株式会社DGN
共同開発:YCAM InterLab
三原聡一郎: テクニカルディレクション/空間デザイン
大脇理智:映像
西村悦子、濱 哲史:サウンドエンジニアリング
高原文江、やの舞台美術[小田哲也、西田昌一、矢野郁子、山内浩之]:照明
岩田拓朗、宇野三津夫:空間コンストラクション
三浦陽平:空間コンストラクションサポート
丸尾隆一:ドキュメンテーション

関連展示 2

三上晴子+市川創太
「gravicells —重力と抵抗」(改訂新バージョン/YCAM委嘱作品)

[写真] 三上晴子+市川創太「gravicells —重力と抵抗」

重力と空間のつながりを体験する。
世界8カ国/12都市を巡った作品、待望の新バージョン

「知覚のインターフェース」をテーマに、独自に開発した特殊な装置によって、人の重力とそれに対する抵抗を、映像と音 によって表現する体験型のインスタレーション。
展示空間には、重力とそれに対する抵抗による仮想の力学場が設けられています。特殊な装置と水圧センサーによって開発された独自のセンシング機構は、観客の位置、重さ、傾き、速度や重力加速度の作用をリアルタイムに計算し、3次元の空間の歪みとして、映像と音に出力します。体験者は、空間の中を自由に歩き回ることで、ダイナミックに変容する映像と音から、身体への重力の負荷と、それに対抗する反力を感じることができます。
今回の新バージョンでは、映像をプロジェクションする床面と3方向の壁面を、新たに四方を連結した4面スクリーンに拡張。床面を加えた5 面のリアルタイム画像の動きが連動し、観客の動きや重力の作用による空間の変化を、より立体的な3次元空間として体験することができます。

「重力と抵抗」
text: 三上晴子+市川創太

人はなぜ、嬉しい時には上を見上げ、胸が高鳴り、飛び上がるのか、そして、悲しい時は首をもたれ、うつむくのか。これらは、私達は精神までも重力に縛られていることの表れであり、「上下」という価値観は、神は常に上方に存在し、地獄は地下にあるとされることからもうかがえます。
上下左右という「方向」は、身体が重力の働く環境の中で機能しているという事実から生じ、私達の空間概念に深く取り付いて離れようがないものです。「崩れ落ちるツインタワー」という「重力と抵抗」の構図の前にも、私たちはただ見るだけで無力でした。このように、私たちは重力からは逃れられない生活環境に存在し、建築物の形態はもちろんのこと、室内空間、プロダクト製品、身体、内臓、あらゆる有機物、細胞まで、地上に存在する全てが重力という力の支配が形を変えたものといってもいいでしょう。
そして、重力は「自然界に存在するといわれる4つの力のうちのひとつ」で、もっとも弱い力、「全てのものがお互いに引き合う力」です。今回の作品は、この物理作用に着目し、日常空間と地球の質量との圧倒的な差を感じながら、重力という広大で深遠な圧倒的な力の一部を切り取って提示したプロジェクトなのです。
(作家コンセプトテキストより抜粋)

作家プロフィール
三上晴子+市川創太:作品制作/コンセプト
協力:竹ヶ原設計(ハードウェア設計)
共同開発:YCAM InterLab
三原聡一郎:テクニカルディレクション
大脇理智:映像
西村悦子、濱 哲史:サウンドエンジニアリング
高原文江、やの舞台美術[小田哲也、西田昌一、矢野郁子、山内浩之]:照明
岩田拓朗、宇野三津夫:空間コンストラクション
三浦陽平:ネットワーク
丸尾隆一:ドキュメンテーション