中谷芙二子+高谷史郎「CLOUD FOREST」

2010年8月7日 – 10月17日
インスタレーション/YCAM委嘱作品
CLOUD FOREST(YCAM Re-Marks)

概要

「芸術表現と情報技術の融合による新たな環境創造」をテーマに、中谷芙二子と高谷史郎がコラボレーションした展覧会「CLOUD FOREST」。本展では、YCAM内の中庭とホワイエ、YCAM正面に位置する中央公園の3カ所を会場に、人工霧、太陽光、サウンドが多様な情景を生み出す大スケールのインスタレーションを展開した。
YCAM InterLabでは、人工霧の生成に伴う電源や水圧のインフラ設計のほか、本展の重要なキーワードとなる「環境の反射」に基づき、3つの作品と環境要素を連動させる汎用システムの構築をおこなった。さらに、アーティストの構想をもとに、それぞれの作品において特徴的な機能を担うデバイスや装置、システムを開発した。中央公園に展示した霧の彫刻「CLOUD FOREST – Fog Installation #47784」では、霧の精巧な造形を実現するため、霧の動きを制御するソフトウェアを開発。中庭に展開する作品「CLOUD FOREST- Patio A, Patio B」では、自然と人工、外部と内部とを共有する環境創造において、インターフェースの機能を担うミラー装置を設計。また、霧とサウンドが連動した情景を生み出すため、噴霧制御ソフトウェアとサウンド生成ソフトウェアを開発した。ホワイエに展開する「CLOUD FOREST – Foyer」では、音の投射と反射による複雑なサウンドスケープを立ち上げるという構想をもとに、音響装置の設計とソフトウェアの開発をおこなった。

開発内容

テクニカルドキュメント

展覧会インフラ設計

高圧電源を要する霧発生装置を、館内中庭と中央公園で同時に稼働するため、AC200V三相三線の動力電気工事を実施。また、霧発生装置への水の供給を確保するため、昇圧ポンプを含めた水道供給システムの設計をおこなった。これにより、7〜155気圧に昇圧された水を、毎分100リットル、15分間継続して放出することが可能になった。このほか、センサーで取得した周辺環境の風向や風速のデータをもとに、霧発生装置と音響装置を制御するシステムを構築。中庭にレイアウトした計456個のノズルをもつ霧発生装置と、中央公園にレイアウトした計360個のノズルをもつ霧発生装置の動作タイミングと霧の放出量を制御するほか、ホワイエに設置した音響装置の回転コントロールを可能にした。システムの設計にあたっては、通信プロトコル「DMX」を採用し、センサーのアナログ信号をDMXに変換する回路、DMXで受信した信号をもとにハードウェアを駆動させる回路を開発した。

ミラー装置の設計/開発

展示作品:「CLOUD FOREST – Patio A, Patio B」

展示会場となる中庭は半屋外であるため、ハードウェアには防水加工を施し、ステンレスやアルミを素材としたパーツで組み立てた。6台の装置の設置にあたっては、太陽光の反射角度、光を投射する位置を想定し、太陽光を真下に反射させるよう考慮した。

噴霧制御ソフトウェアの開発

展示作品:「CLOUD FOREST – Fog Installation #47784」「CLOUD FOREST – Patio A, Patio B」

中谷氏が考案した噴霧シーケンスのパターンを、風向や風速のデータをもとに切り替え、霧の放出を制御するソフトウェアを開発。中庭のノズルユニットの配置にあたっては、その空間の高さと直方体形状を生かし、各中庭A・Bで異なるレイアウトを採用した。中央公園と中庭A・Bにおいて霧が充満する/消散するシーンをつくりだすため、噴霧シーケンスのパターンに最適なノズルユニットとの組み合わせや、噴霧の持続時間を、それぞれの空間にあわせて厳密にデザインした。また、使用する噴霧シーケンスの選択と再生のタイミングは、中央公園に設置したセンサーの風向と風速のデータに基づき、3つの会場の霧の充満状態を判断し、決定するよう、制御している。

サウンド生成ソフトウェアの開発

展示作品:「CLOUD FOREST – Patio A, Patio B」

霧の放出が止まり、晴れる間に、サウンドを生成/再生するソフトウェアを開発。人間のささやき声を収録したサウンドファイルをリアルタイムに断片化し、再構成してサウンドを生成。観客が、霧に包まれた中庭を歩く中で、不意に音に出会うよう、それぞれの中庭に、6個の超指向性スピーカーをレイアウト、配置した。

超指向性スピーカーを内蔵した音響装置の設計/開発と制御ソフトウェアの開発

展示作品:「CLOUD FOREST – Foyer」

ホワイエ周辺の壁や階段などに「音のビーム」を照射することで、反射を含めた複雑なサウンドスケープを立ち上げる、という高谷氏の構想のもと、超指向性スピーカーを内蔵した9基の音響装置を設計/開発した。音を任意の方向へ正確に照射するよう、水平方向の無限回転を実現。精密なステッピングモーターを組み込むことで、0.005度単位での制御を可能にした。さらに、この音響装置の動きやサウンドをコントロールするソフトウェアを古舘健と共同開発した。本ソフトウェアでは、セルオートマトンを参考にしたアルゴリズムによって、装置の回転スピードや方向を決定するとともに、再生するサウンドを、30を超えるシーケンスの中から決定する。これらのシーケンスは、南琢也のサウンドデザインのもと、野外で収録した音、館内の物音、霧発生装置の動作音、装置の回転速度から生成したパルス音などを素材とし、オリジナルのエフェクトを加えて制作した。再生するシーケンスは、回転する複数の装置が向かいあった瞬間や、全ての装置が同じ方向を向いた瞬間といった、9基の装置の複合的な動作状態や、中庭のインスタレーション(「CLOUD FOREST- Patio A, Patio B」)の霧の発生タイミングに基づき、決定、実行される。

テクニカルクレジット

構想、ディレクション:中谷芙二子、高谷史郎
サウンドデザイン : 南 琢也(softpad)
プログラミング : 古舘 健
DMX制御基板設計(音響装置、ミラー装置) : クワクボリョウタ
レコーディング協力 : 吹田哲二郎
テクニカルサポート:平林 慎、半場 唯、パッサパック・クロムサクン

YCAM InterLab

テクニカルディレクション、ミラー装置開発:三原聡一郎
DMX制御基板設計(人工霧発生装置):高原文江
プログラミング:濵 哲史
音響装置開発:大脇理智
音響システム構築:西村悦子、濵 哲史
コンストラクション:岩田拓朗、宇野三津夫、三浦陽平

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