YCAM大学間コンソーシアム:
「公共空間とサウンド “autonomic sound sphere - 自鳴する空間”」

展示=YCAM館内公共空間:
[中庭1、2、ホワイエ〜大階段、公園側エントランス小階段、ロッカー前通路]

 
メディアアート、情報デザイン、感性工学デザイン専攻の4大学の学生によるグループワークによって公共空間におけるサウンドをテーマにコミュニケーションデザインのワークショップ[研究+実地研修+作品制作+作品展示]を行うプロジェクト。
作品は、その場所でしか体験できないような音響効果を取り入れながら、「音」と「音楽的なもの」の要素を組み合わせ、館内各所にサウンドインスタレーション作品を展示。場所によっては、観客の動きが作品に影響を与えるインタラクティブなシステムも取り入れられています。さらに、各場所のサウンドデータはすべて相互にネットワーク化されており、それによって館内全体のサウンドが次第に変化していく作品です。またホワイエでは、渋谷慶一郎による超指向性スピーカー(特定のエリアのみに音が聴こえる特殊システム)を使用したサウンド作品との融合展示など、実験的試みも行われます。

 

公共空間を俯瞰し、空間内の人々の動きを見ると、それは一つの自律的な運動体のように感じられる。生物が数多くの細胞でできているように、公共空間は不特定多数の人々の活動が連続することによって生まれる。本作品では、その運動体をモデル化し、YCAM館内全体が一つの有機体となるように、音空間をデザインした。[プロジェクトメンバー]

 

作品について

autonomic sound sphere sphere(オートノミック・サウンド・スフィア)は、YCAM の館内全体に人の活動の流れを生み出し、館内公共空間の各場所に対して サウンドが連動し、循環的に変化していくというパブリックアートです。

各場所ではそれぞれ独自に設計したシステムが単独個別の振る舞いとして インタラクティヴに観客を迎えていて、さらにそれぞれの場所で生まれるサウンドファイル(コンピュータ内での音のファイル)は、二つの中庭(DTCSとCTDS)を通じてYCAMの屋外の音を取り込みつつ、まるでYCAMの館内全体をサウンドファイルが生物のように循環しています。人が活動する音が、この生物を生み出していくのです。

クリエイティブスペースBIT THINGS に流れている映像は、館内全体の様々な動きによる音の変化を示しています。鑑賞者は、作品を自然に体感するだけでなく、館内のそれぞれの場所で作品への介入によって楽しんだり、自分の声をシステムに録音させ、その循環を追いかけてみたりなど、発想次第で多くの楽しみ方ができる作品です。

 

"autonomic sound sphere -自鳴する空間" とは:
ここでいう”sphere” は、「空間」という意味に公共という広がりのイメージを加えた「領域」を示す”sphere”、また人間の内部領域である「大脳」に捉えられる”sphere” を示している。
そしてそこに設置されるのが、館内全体をつなぐことで一つの循環系となり、館内全体の人々の動きをフィードバックし続けることで自律的な(autonomic)ものとなるサウンドシステムである。自らの公共空間としての振る舞いを受けYCAM は「自鳴する」空間となる。


 

 

RASS: Roam Across Sphere System [ぶらぶらする音]
会場/大階段
大階段に配置された3×4=12 個のスピーカーから流れてくるのは、2 種類の音である。階段で人が動くとその位置と動きに反応して一方の音は大きくなり、もう一方の音は小さくなる。
幅の広い大きな階段というのは単に上り下りのための通路ではなく、斜めに上ったり下がったり、左右に移動したりもできる、立体的な空間である。
階段の中で動き回ったり、腕を大きく振り上げたりしながら、変化する音に耳を澄ませてみると、音の動きがわかりやすい。
 

 


 

 

FIOS: Fade In Out System [かくれる音]
会場/公園側エントランス小階段

この作品は、3つのスピーカーから常に音が流れている。まるで草むらに隠れている虫のように、人が近づくと静かに鳴り止んでしまうが、しばらくするとまた鳴りだす。
縦方向に空間を移動しながら、音の聞こえ方の変化を能動的に感じられるところが特徴的な作品である。
この作品の周辺では、人が通ったあと、しばらく音が静かになるので、数十秒前にここを通過した人の痕跡を感じ取ることが出来るかもしれない。

 

 


 

 

CAGS: Catch And Go Systems [つかまえる音]
会場/ロッカー前通路
この作品には、一直線に並べた5 つのスピーカーと、6 本のマイクが使われている。
マイクに入った音(サウンド)は、DTCS( スタジオA とホワイエの間の中庭)の音と混ざり合って、一瞬であなたの元にあつまり、すぐさまスピーカーを移動して逃げていく。館内でも人通りの多いこの通路で「人が水平方向へ直線的に移動していく」ことを意識させる作品となっている。
 

 


 

 

DTCS: Diffuse The Converged Sound [配られる音]
会場/中庭(スタジオA側)
スタジオA 側の中庭は、autonomic sound sphere 全体のベースとなる音に対して、屋外の環境音を取り込む役割がある。この場所で録音された音は、コンピュータによって全体を循環する流動的な音と合成されて、大階段の「RASS」、通路の「CAGS」、小階段の「FIOS」というそれぞれの作品へと受け渡されていく。
たとえば、この場所に仕掛けられたマイクに声を吹き込むと、館内各所の作品にその声が紛れ込んでいく。
 

 


 

 

CTDS: Converge The Diffused Sound [集まった音]
会場/中庭(インフォメーション前)
CAGS 横の中庭は、大階段の「RASS」、通路の「CAGS」、小階段の「FIOS」というそれぞれの作品で生成され送られてきた3 つの音が、
合成された音として聞くことが出来る。
また同時に録音も行なっていて、3 つのサウンドファイル(コンピュータ内での音のファイル)にこの場所特有の音を合成して、屋外の環境音と共にDTCS(スタジオA 側)へと送る。
今回のautonomic sound sphere というプロジェクトは、このような循環的なサウンドシステムを構築し、公共空間での音の環境について探る試みであるともいえる。
 

 


プロジェクトメンバー:
須藤崇規(東京藝術大学音楽研究科芸術環境創造専攻 大学院1年)
谷口暁彦(多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻 大学院1年)
林 洋介(IAMAS[情報科学芸術大学院大学]メディア表現研究科スタジオ1 大学院1年)
森川岳彦(山口大学理工学研究科感性デザイン工学専攻 大学院1年)
 
サポートメンバー:
豊野智穂(山口大学大学院理工学研究科感性デザイン工学専攻 大学院2年)
大西健司(山口大学工学部感性デザイン工学科感性基礎学講座 大学4年)
杉山 太(山口大学工学部感性デザイン工学科感性基礎学講座 大学4年)
吉田 綾(山口大学工学部感性デザイン工学科感性基礎学講座 大学4年)
 
協力:
一川 誠(山口大学大学院理工学部研究科感性デザイン工学科 助教授)
久保田晃弘(多摩美術大学情報デザイン学科 教授)
熊倉純子(東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科 助教授)
関口敦仁(IAMAS[情報科学芸術大学院大学]メディア表現研究科 教授)
平林真美(IAMAS[岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー]DSPコース 助教授)
三輪眞弘(IAMAS[情報科学芸術大学院大学]メディア表現研究科 教授)
 
テクニカルサポート: YCAM InterLab
 
監修: 渋谷慶一郎+池上高志