ラッドローカル2 レポート

4日間の渡る集中ワークショップは無事に終了いたしました。ここでは現場の雰囲気と当日のプレゼンテーション、及びイベント内で講師陣のレビューを掲載いたします。また講師でもあった影山氏にRADLOCAL2全体についてのレポートも併せて掲載いたします。

プレゼンテーション

全国から集まった参加者は4日間でレクチャー、リサーチ、グループワークを経て、最終日に「5年後のセンシングツールが日常的になった地域社会」をテーマに、有り得るかもしれない山口市中心商店街と湯田温泉の取り組みについて、プレゼンテーションを行いました。各チームのプレゼンテーションと講師陣によるレビューを紹介いたします。(イラスト:望月 梨絵)

たためる足湯
で会いましょうベンチ
かべぽ
レノファ観戦VR
夜のオレンジ計画
熱量可視化のベンチャー商店街

たためる足湯

山田正江 関 文煕 伊藤慎一郎 鈴木章子

湯田温泉には無料で使える足湯が6個あり、夜には観光客や地元の人達の憩いの場として利用されていた。足湯の温度は42°〜45°と比較的熱く、その熱さを有効的に活用できないかとして産まれたのが「たためる足湯」だ。例えばYCAMで野外の映画上映イベント時など、スポットとして持ち出される他、湯田温泉の様々な場所でキットがレンタルされることにより、町中の自分のお気に入りの場所でくつろぐ観光客が増加。キットに内蔵されたGPSデータにより、街の新しい巡り方が分析され、「たためる足湯」をより有効的に使える観光アプリも誕生。町中を歩き回るだけではなく、立ち止まってくつろぐ温泉街として、新しい魅力を産み出している。

講師陣レビュー
  • 影山裕樹

    一般の参加者の方は今日初めて聞くわけですが、ワークショップの最中に、ただアイデアを出すのではなくて、それをいかに実現化させるか、というところに気をつけるよう伝えてました。なので、アイデアとして面白いだけでなく、それぞれ、実現化のための障壁をどうクリアするかまで考えてもらっています。この企画も、そういう意味で分かりやすいプロダクトがイメージできているので、とてもいいと思ったんですけれども、実現化させるための道筋がもうちょっとほしいなと思いました。例えば、何人も入ったら、すぐに汚れて濁ってしまうし、温度も下がっていく。そこが課題ですね。足湯×折り紙という組み合わせは面白いですよね。あとは、企画としては面白いんだけれど、この土地の歴史をどう読み替えていくか、という縦軸のリサーチがもう少しあってほしかった。歴史的なリサーチが、地域で新しいものをつくるときにエンジンになってくるはずなんですけど、時間がなかったというのもあると思うんですけど、もうちょっと歴史的な背景とか、山口らしさを取り入れた企画にしてほしかった。

    • 水野大二郎

       足湯を使う人は、どんな人かなと踏み込んで考えてみると面白くなるだろうなと思いました。実際、フィールドワークの振り返りでも登場した部活帰りの人たちが、遊び半分、足を洗うのが半分で足湯使っていたとしたら結構面白いことですよね。観光客じゃないんだ!みたいな、部活帰りの中学生が団体で来るんだ!みたいなことが事実として発見できましたよね。 では、他にはどういう利用者が考えられるんだろう。温泉と直接的に関係がない人には、どんな人がいるんだろう。実はいろんな人がいるんじゃないか。もしかしたら、人間じゃないんじゃないか。犬とか?みたいな。女将劇場の女将でも面白いんですけど、犬とかでも全然構わないんじゃないかなと思うんです。 こういった公共的なサービス利用者を考えるにあたり、「移動したい」というニーズ、ウォンツがあると思います。それに加え、普段、足湯には入ってはいけないと言われている人や動物もいるはずです。 もし人間じゃなかったら、人間と一緒にいる犬、ネコなどのペットとリラックスタイムとかありえるかもなと思いました。 もしこれが真実だ、可能だとすれば、こういうユーザー層も考えられ得るんじゃないか、みたいな話がうまく拡張すると面白い。ドッグランを地図上にプロットするのと同じように、足湯に入れますよというのをプロット化してあげても面白いかもですね。かつて、道後温泉では馬が入れたそうです。でも、においが出て仕方ない。そんな理由もあって道後温泉は全体的に停滞している時期があった。結果的には人間だけの観光地化したとんだけれど、ペットぐらいだったら一緒に入れても楽しいよね、という状況もより面白くなるかもと思って聞いていました。

    • 山田興生

      最初に畳める足湯って聞いたとき、皆さんも思ったと思うんですけど、これは足湯をモバイルしているということなんだなと解釈していました。そう思ってたんですけど、聞いていると、どうもそこが面白いところではないような気がしてきていて。僕が思い出すのは、コンピュータって昔、すごく高くて、研究所にしかなくて、使える人はわずかだったんですけど、今、サーバーと呼ばれるコンピュータは仮想化されていて、好きな時間、好きなところで、増やしたいときに一瞬で増やせる。そして要らなくなると、一瞬でそれをソフトウェア的に一番コストのかからない状態まで縮めることができる世界なんですね。それによって、皆さんが使っているソーシャルメディアとかのインターネット上のサービスは、いろんなユーザーの瞬間的なアクセスとか負荷に対して、伸縮性のある状態で展開することが可能になっていると。 畳める足湯ってどっちかというと、その文脈で考えたほうが面白いのかなという気がしました。足湯自体が何かメインのコンテンツというよりは、山口にも人が集まるタイミング、アクセスのピークが偏在していると思うんですね。夏よりも冬が多いかもしれないとか、そういったところにエラスティックに足湯を展開できるみたいなこと。昔はモノが1カ所にドンとあって非常に使いにくかったところがあったと思うんです。そういう事例が幾つもあって、要するに固定資産だったものが何か仮想化されていく文脈で足湯を見ていくと、結構面白い未来が描けるのではないかということを僕は考えました。

      • 水野大二郎

        今の話を聞いていたら、『そうだ!』と思ったことがありまして。都市のリズム分析に関して「アンリ・ルフェーブル」という人が書いた未完状態の本があるんですけど、その話を思い出しました。 簡単に言ってしまえば、まちだって、人間が生活リズムを描くように、都市もいろんなリズムを描いている、というわけです。 例えば9時-5時で働いている人は就業中はある場所にいるけど、仕事が終わったら移動して活性化する別の場所とかアクティビティがありますよね。 地形とか人間の経済活動とか、交わされる会話とか、様々な都市で起きるリズムをレイヤーで分けて考えると、いろんなハーモニーがあるんじゃないか、ということです。 そして、建築物の多くが、今までは動的なものとはみなされなかったところが重要ですよね。温泉は水なのに固まってる。温泉客が施設に来て、何時に食べて、何時に寝る。ある時間はお湯を出すけど、ある時間で止められるのが温泉施設の一般的な運営ですよね。その上、温泉は水道管である地点までしか引っ張れないから、盛り上がれる場所が限られていたわけです。 だから、温泉が動くことが可能になると新しい都市のリズムを描けるようになるんじゃないですかね。 今まで何もアクティビティが発生していなかった場所、時期、時間帯に、新しい可能性が見いだせるんじゃないかということも考えられるでしょう。 そこで都市にある多様なデータを積層して、空いているところをうまく見つけることがあっても面白いかもと思いました。 それは移動前提で考えることができる、都市の新しい使い方と関連するんだろうなということです。

      • 影山裕樹

        個人の欲求から始まって、レジャーとして発想されたと思うんですけど、今、お二人の話を聞いていて思ったのは、東北の仮設住宅に足湯を設置した例もある。要は、仮設トイレとかと同じような感覚で、仮設足湯というニーズのほうが、実は可能性があるのではないかなと思いました。ただやはり、山口の湯田温泉である必然性は見えてこなかった。

    で会いましょうベンチ/夜の商店街運動会

    吉村卓也 西村星七 平塚 桂 江角寛

    <で会いましょうベンチ>:直線に長い山口市中心商店街では、公共で93個、店舗で102個という多くのベンチが設置されていた。そんなベンチを新しいコミニケーションツールとして活用したのが「で会いましょうベンチ」。ベンチに人感センサーはじめ、様々なセンサーが、座った人達をマッチングさせる音楽が流れるなど、既存のローカルな繋がりをゆるやかに膨らませる役割を担い、今ではベンチに座ることを目的に商店街に訪れる人達で溢れている。

    <夜の商店街運動会>: 山口市中心商店街は、5年前から夜の運動会の開催地として、世界的にもユニークな商店街として名が知れ渡っている。もともと、山口市では湯田温泉は夜のまちとして、また昼は山口市中心商店街といった共生関係があった。そんな夜の商店街を空きスペースとして始まったのが、夜の運動会である。湯田温泉と商店街の間に位置するYCAMで開催されている未来のスポーツを開発する <スポーツハッカソン>の会場として、この縦長のアーケード街の特徴を活かしたさまざまな競技が開発され、実施されている。

    講師陣レビュー
    • 水野大二郎

      夜の商店街に人を呼ぶ、しかもYCAMにいる人的資源、あるいは物的資源を有効に利活用して、一時的にまちを使いましょうというのは、いいアイデアですよね。YCAMも、夜の運営をもうちょっと考えてみてはどうか、やれるはずだと、素直に思いました。YCAMのスタッフが大好きそうなイベント、例えばSouth by Southwestであるとか、バーニングマンみたいな催し。アメリカの何もないところで、わざわざフェスティバルのためだけに一生懸命ものをつくって一時的にその場所を使うわけです。バーニングマンに至っては砂漠の真ん中だったはずです。それでもわざわざみんなが集って、面白いことをやって帰っていく。そういう文化にとても慣れ親しんでいる方が多いはずですので、商店街を対象にしても一瞬で面白い状況をつくれるはずだと思ったのです。だからYCAMの中の人たちに対していい提案になり得るのではないかなと聞いていました。

    • 山田興生

      今バーニングマンの話が出て、僕は行ったことがないんですけど写真だけを見ると「何てマッドマックスな荒くれ者たちなんだ」と思うではないですか。ですけど参加した人のレポートを読むと、運営している人たちは、ものすごくきれいに組織立ってるらしく、鉄くず一つ、ごみ一つ、残さず帰るらしいんですね。それをちゃんと実現するための組織づくりというのがあって。例えば各エリアごとにグループリーダーみたいなのを決めて、そこの原状復帰ということを厳しくチェックして。それが基準に満たないとか、クオリティが下がったということになるとペナルティがあるという結構厳しい仕組みがあって。すごくクレイジーなフェスティバルからは想像ができないような、オーガナイズされた仕組みがあるというところは参考にできるのかもなと思いました。 まず実現性がとても高いだろう、全く難しいことじゃないだろうというのは、先ほどの例と比較しても思うんですよね。また運動会というもので、コミュニティの住み分けをまぜて違う空間にしていくというのが、いいなと思ってイメージがすごく沸きました。昨日、僕も湯田温泉で飲んでたんですけど、もしそういうのが昨日あったら、僕らはたぶんスナックへ行かずにこの運動会へ行ってると思うんですよ。それで、酔っ払った状態で、あの赤外線とかをやって。商店街ですごい巨大なPowered by YCAMをいろんな子どもや大人に対してできるんじゃないですか。

    • 影山裕樹

      酔っ払ってあの線に引っ掛かったら、ビビビビッて音が鳴るみたいな。(笑)

    • 山田興生

      子どもも、そういったイメージで商店街をどんどん吸収していくのは、記憶をつくるという意味でも、いいと思うんですよね。それに関しては、ほんとにいいのではないかと。

    • 水野大二郎

      人が集まればお店も開き、お店が開けば、活動がさらに展開していくので、まずは人が集まる状況をつくらないと。持っている資源だけで何とかするっていうのは、すごくいいですよね。

    • 山田興生

      夜盛り上がってると、逆に昼やってる店主の人とかも、何かやらなきゃまずいのではないかという刺激を受けるような気もするんですよね。

    • 影山裕樹

      基本的にこういう企画って、人がマイナスだと思っているものをいかにプラスにするか、という視点から始まるので、そういう意味で、夜の運動会は、本当に目からうろこなプランでした。  ただやはり、一番大事なのは、それをどう実現させるかということ。今、お二人がおっしゃったみたいに、要は交渉ですよね。商店街の交渉って結構大変だと思うんです。もちろん、全部クリアしなくてもいいんですけど、一つだけでも何かクリアできるポイントを提示していただけたら、実現化に向けて一気に加速すると思います。ぜひ、理想で終わらないようにしてもらいたいなと思いました。  もう一つ、で会いましょうベンチは、僕は大好きなプランでした。やはり出会いというコンテンツは、キラーコンテンツなんですね。人も集めやすいし、世代間の交流もつくりやすい。ただ、出会いって、何かそこによこしまな欲望をしのばせないと面白くならないんですよ。表に出さなくても、もうちょっとエロさというか、下心感を陰にしのばせてもらえると面白くなるかなと思いました。

    かべぽ

    高橋 茉莉 山下 優紀 赤星 良輔 山根 賢三郎

    湯田温泉の足湯の源泉はパイプを通り、街の地下を巡っている。足湯が余っているため、その源泉を活かした新しい街のランドマークとして作られたのが、温かい壁「かべぽ」である。温かい壁?と誰もが半信半疑だったが、設置してすぐさま、待ち合わせ場所、一次会の休憩場、立ち飲みをする人達など、さまざまな活用方法が編み出されていた。会話、表情など様々なセンサーが埋め込まれ、喋る壁としてリニューアルも検討中である。観光客、地元の人、そして猫達にも愛されるランドマークとして、湯田温泉の人気を支えている。

    講師陣レビュー
    • 山田興生

      センサーとか、データみたいな言葉はあまり使わないという話をされて、僕はそれは良かったように思います。僕がすごくいいことだなと思ったのは、最後の「どういうふうにアイデアをつくっていったか」ということを最終的にきちんとまとめたというか。 今回カードがあったり、いろんな人との関わりとか、この土地ということがあって、偶然ひらめきでアイデアが出たというところも、幾つかのグループではあったかもしれません。ですけど、ここで何か出てもそれがどうやってできたのかということを、きちんと抽象化するというか、再現性が担保できるような形に自分の中で分解することができないと、毎回毎回、行き当たりばったりで企画を考えたり、問題解決してしまいがちになると思うんですよ。 プログラマというのは、その辺をすごく意識してものを作るところがあって、すごく親近感がありました。あと、カベポはネコも集まってくると思います。そのとき、僕らは人間で、テクノロジーに囲まれているけど、やっぱり同じ生身の生物なんだなというのを感じてしまうかもしれません。ということは、たぶんネコとか、動物みたいなものとのインタラクションが起こり得るよねと。サルが温泉に入ってるみたいなのがあるじゃないですか。そこら辺のストーリーも想像できて面白いなと思いました。

    • 影山裕樹

      人の集まる壁という話を最初にされていて、それを「かべぽ」という、すごくキャッチーなワードにちゃんと落とし込んでいくところが本当に素晴らしいなと思いましたね。ただ話を聞いているだけだと、どういう壁なのかイメージがしづらいんですけれど、バス停にコンパクトな壁が設置できたとしたら、と考えると、かなりリアリティが出てきますよね。正直、昨日の中間発表を聞いたときに、実現化は難しいだろうと思っていたのですが、それが一気に、実現化に向かっていったなという感じがしました。結局、風景がどこまでイメージできているかということなんですよね。リアルな風景というゴールに向かって、どうやって、いろんな障壁をクリアしていくか。クリエイティブって面をつくる仕事なんですよ。いろんな属性の人が集まれる面をつくる。このプランはまさに壁が面になっていて、そこから、今、山田さんがおっしゃったみたいにネコが集まるかもしれないし、立ち飲みができるかもしれない。一つの面をつくると、いろんな可能性が生まれてくる。今回のローカルメディアワークショップで、僕の個人的な裏テーマでもあったんですけど、「メディア」を紙とかWebメディアととらえないで、本来の意味でのメディアって何だろうというところを考えてもらいたかった。そういう意味では壁をメディアと捉える素晴らしいプランでした。人と人が繋がって、そこから交流が生まれていく。それが本来のメディアの役割だというところに行き着いていただいたのがよかった。

    • 水野大二郎

      一般的に新規事業をおこしましょう、考えましょうといったときは、どういうふうに地域特有の希少な資源を発見し、それをどう最大化するかという話に陥りがちですよね。でもこのプレゼンテーションでは、実は希少だと思われていた資源は余剰資源で、最大化するということではなく、最適化するという発想なのではないかと聞いていて思ったんです。最適化するにはいろんな手法があるはずで、中にはお金を掛けなくてもできる方法があるのではないか。これが僕の中でもずっとテーマになっています。今回のテーマの一つである地域においては、必ずしも潤沢な予算があるところばかりではないので、いかにして最適化するか。場所、使ってないなら貸してください。壁、使ってないなら貸してください。お湯、使ってないなら貸してください。というふうにして、借り物競争をいかにうまく実現するかということに関して、非常に面白いなと思いました。そうやっていく中でメッセージボードのように、何か文字が書いてあるわけではなくて、「暖かい」という情報が出ているということが結果として虫やネコ、あるいは人が集まることになるのであれば、そこからいろんな情報が発信されていくことになりえますよね。ゆで卵をつくれるかもとかと言って、料理も始めちゃうみたいなことがどんどん起き得るのが、非常に面白いのではないかなと。もしかしたら、それが最適化の大きなメリットになるかもしれないと思って、非常に楽しく聞いておりました。

    • 影山裕樹

      最適化って、まさにそうだと思うんですね。いかにお金を掛けないかということをみんな考えていなくて、いかに予算を使うか、って行政の人も発想してしまいがちです。借り物競争のように、元手0円でどんな面白いことができるかをみなさん、もっともっと考えていってほしいですね。

    レノファ観戦VR

    山崎 基康 小林 功弥 伊藤 明己

    山口市のサッカークラブチーム、レノファ山口。山口市中心商店街にはレノファ山口のアンテナショップがあり、センシングが日常化した地域社会では、さまざまな取り組みがこのショップで展開されている。会場にいるレノファファンの心拍数や声量、発汗量など、さまざまな数値とアンテナショップの商品の値段が連動されることで、レノファのファンの応援は凄まじいと、他のチームを恐れさせる存在になっている。また試合中の選手の視線をそのまま再現するVR装置などが設置され、アンテナショップはそれ列をなして並ぶ人達の活気で満ち満ちた場所となっている。

    講師陣レビュー
    • 影山裕樹

      技術的なことは僕、分からないんですけど、リアルタイムでVRの映像を送れるかとか、その辺のリスクをどこまで考えていらっしゃるのかが見えなかった。もうちょっとそこを詰めていってほしかった。あと、サッカーをやっている人って、みんなサッカーが好きだと思うので、サッカーを盛り上げるためのアイデアなら積極的に拾ってくれていると思うので、ショップの人に話を持って行ったりしたら、もしかしたら勝手にやりだす人が出てくるかもしれないな、と思いました。

    • 山田興生

      今、データとスポーツとセンサーっていうのが、すごく大きな変革点にあります。特にメジャーリーグでは、球の軌道を2センチ精度くらいで、ピッチャーの指先からキャッチャーミットまで、計測できるようになりました。今までは人が手で入力していたようなものが、すべてデジタルデータとして計測できるようになった結果、何が起こったかというと、例えばキャッチャーの能力の評価が変わったんですね。実はボール球なんだけどストライクに見せる技を持っているキャッチャーがいることが分かった。それがあると、アウトを取れる確率が高くなるわけじゃないですか。今まではデータがなかったのでそういうキャッチャーは評価されなかった。ラッセル・マーティンという捕手なんですけど、彼はそうやっていち早くデータを分析したチームに結構高い値段で買われました。そのチームは「何であんな奴を買うんだ。あいつは落ち目だろうが」とファンにも叱られながら、ようやく20年振りに負け越しを脱するという物語があるんですけど、今、ちょうどいいタイミングかなというのを聞いていて思いました。 サッカーチームが今、J2からJ1に行こうとしていると。サッカーに興味がない人も巻きこんで、街から、そういう何か大きなものがひのき舞台に上がるタイミングに対して、そういった技術をサポートする仕組みも地域にある。すごくいい組み合わせだし、タイミングもとてもいい。5年後という設定ではなくて、今すぐやったほうがいいのではないかという気がしました。 具体的にはサッカーチームがデータを持っていると思うので、戦略のためだけじゃなくて、実際にそのデータを見せてファンを増やすとか、例えばアーケードの中でアウトプットするような場所を持つというのは、すごく想像しやすいなと思いました。

    • 水野大二郎

      僕はちょっと視点を変えて、プレゼンテーションのことについて考えられたらいいなと思いました。商店街の中にある「レノファ」というサッカーチームのお店は生活支援センター的なものも含めた、総合的な施設になっていませんでしたかね? レノファのお店は地下にあるようですが、商店街の中でレノファのお店が、どういう位置づけで、どういいう周辺との関係性の中で栄えていて、どういう意味を商店街の中で発露しているのかが、僕にはあまり見えなかったんです。プレゼンテーションの資料には統計資料が多かったので、自分が実際に赴いた結果どう感じ、そこにどう「これまでにない風景」を描きたいと思うか。つまり、新しいことをやるための機会の発見と提案をどうしたいのかがよく見えなかったです。「これまでにない風景」というのは、プレゼンテーションにおいて便利なキーワードのように多用していましたが、それこそ描かれたほうが良かったのではないかと思いました。 そして、描くにあたり定性的調査、例えば、参与観察で発見されたものが、自分の中で「あっ、ここに、こういうのがあるんだったら、こういうふうなものが可能になるんじゃないか」というふうに、推論を通して前進力になったと思うんですよね。確かに、統計的な資料って見ていると「そうだよね、うん、うん」ってなります。その上で、「じゃあ、それを踏まえて何を達成したいんですか」っていう未来の夢を描くみたいな部分が、もっと具体的になると面白いのではないかなと思いました。 スポーツにおけるセンシング技術やAR、VRなどがテレビ・ネット中継を拡張すると注目されているのが、ここ数年の動向だと思うんです。それをふまえ、もし、あの商店街の、あの場所を中心にして、どういう界隈をつくると、まちはどうなるか?という部分にまで想像力と推論力を働かせた提案となると、より面白くなるんじゃないかと思って聞いていました。

    • 影山裕樹

      サポーターがIoT化する、レノファが盛り上がることを目標とするのではなくて、サポーターが盛り上がることをゴールにしてみたら面白いかなと思いました。盛り上がると、心拍数が上がる。サインが会場に出るみたいなアイデアを出されていましたけど、それを画面で見た一般の視聴者の人、サポーターでもない人が、レノファのサポーターって面白いよね、というふうになってくれたら、ニュースにまで取り上げられる気がしたので、それこそ、YCAMがある山口ならではのサポーターの形を追究していったら面白くなるんじゃないかなと思いました。

    夜のオレンジ計画

    齋藤 和輝 田中 真奈 栗田 昌平 永井 藍子

    室町時代に始まり、800年を超える歴史のある湯田温泉。5年前までは、夜の温泉街を出歩く観光客は減少傾向にあり、大通り以外は閑散としていた。しかし、今では各所に仕掛けられた人感センサーが反応するとオレンジに光るLEDが路地の奥まで設置され、裏路地を探検し、歩き回りたくなる非日常感を演出し、人気を博している。さらに人感センサーの反応を分析し、各スポットの混雑状況をリアルタイムに街の地図に重ねたヒートマップとして発信することで、観光客の回遊の最適化を実現している。また、最近では夜に活用されていなかったYCAMを、過去の作品を追体験できるデジタル・アーカイブ施設として夜間限定で開放する取り組みがスタート。湯田温泉から徒歩圏内でかつ、世界的にも珍しい夜限定の企画展として若い世代や外国人観光客を呼び込むことに成功している。

    講師陣レビュー
    • 山田興生

      プレゼンについて、5年後の新聞記事を読むという立場から、今、プレゼンテーションをされているものを想起させるというやり方は、非常にうまく機能しているなと思っていて。それが地図というか、実際、俯瞰で行ったときに光がどんどん広がっていくというのは非常にイメージしやすかったなと思いました。僕は、お二人の話が聞いてみたいという感じです。

    • 水野大二郎

      僕、京都に6年ぐらい住んでいたんです。その間に観光客や参拝客を増やすためのライトアップ系イベントが増え、道のみならずお寺も夜間拝観、寺や庭を照らすみたいなことをやってました。寺から雲に向けてライトをビーッと出すところもありますよね。ほかにも、事例としては江ノ島の江ノ島水族館があげられますかね。たまに夜、クラゲが浮遊している展示室で、女子限定でお泊まりに行くことができる企画があるんです。こんな風にして、「夜をいかに使うのか」、夜と何を組み合わせるかは意外と見過ごされてきた視点だと思います。YCAMが持っている資源を今の開館時間にとどめるのではなく、押し広げる。そうすると、夜のまちの回遊性に少し貢献できるポイントになり得るのではないか、という視点は非常に面白いなと思いました。他方、それがもし恒常化したらどんなことになるでしょう。今の京都みたいになると、どこもかしこもライトアップしていって混むので、うっとうしい。逆に暗いところがいい。そこで暗いところに逆張りする発想もありえますよね。その場合は「オレンジ色じゃない暗闇」をどう評価するか、ここにも何か価値があるんだよ、みたいな提案をどうするかというのも面白くなる点かもなと思って聞いていました。

    • 影山裕樹

      こちらのチームは、昨日の中間発表から論点が整理されていて、それをシェイプアップしているので、すごくいい発表でした。あと、何より温泉なのに女将劇場に引っ張られ過ぎてないところが良かったですね。昨日の講義でも言いましたが、編集とかデザインとか、そういうクリエイティブの仕事って、面をつくることが大事なんです。お客さんとか、一般のユーザーが分かりやすくアクセスできる入口です。そういう意味で、新聞というのは本当に素晴らしい。  「虚構新聞」というのがありますけれど、フィクションなんだけど現実に近い、現実にあってもおかしくない、そういうところからスタートして、それを実現化させていくのが大事だと思うんです。予算まで出してくれてましたから、リアリティがある。ただ、ここにメンテナンスの予算まで書き込んでくれたら、一気に実現性が上がる気がします。それから、YCAMである必然性があまりない。センサーを設置して、ライトを光らせるというアイデアだけだったら、正直、誰でもできそうじゃないですか。YCAMの人的資源を使う必然性がもうちょっと欲しかった。あと、もう少し下世話な感じというか、ユニークさを出してほしかった。例えば今のタイトルだと正直、新聞の記事にはならない。読者をひきつける見出しを考えてほしかったです。例えば、飛行機って夜、着陸するときに誘導灯が出るじゃないですか。ああいう感じで、「温泉街に酔っ払いの誘導灯が誕生」とか。要は、酔っ払いがフラフラして、車にひかれないようにするための誘導灯なんだ、というキャッチコピーをつける。あるいは、さっき女将劇場が端っこにあると言いましたけど、端っこに女将劇場があって、端っこにYCAMがあるから、「女将とYCAMを繋ぐ酔っ払い誘導灯現る」とかね。

    • 山田興生

      すごく自然にまちにあることが想像できるようなプレゼンテーションだったと思うんですけど、だからこそ、その中にどういうセンサーが仕組まれていて、それによって何を取るのか、そこが想像できなかったというか。違和感なくデータをとるセンサーがあるフィールドを仮定してプレゼンテーションされているので、そうやって、すごくいいデータが取れそうな環境に対して、じゃあ、取ったデータはどうするのかというのをもう少し聞きたかったですね。

    熱量可視化のベンチャー商店街

    浅見 裕 大崎 真澄 永渕 雄也

    センシングが日常化した商店街では、会話量や会話内容、表情などが計測されるようになった。各店舗ならではの購買体験が可視化されたマップが誕生し、インフラとして機能している。例えば店舗内での会話がキーワードとしてマップ化され、Fablab山口がアートに関心の高い人が集まる場所、魚屋さんが実は子育て情報のハブとなっていることがわかるなど、血の通ったリアル情報スポットとして商店街が持つ価値がヴィジュアル化されていく。店舗側は自分たちならではのストーリーをしっかり伝え、オリジナルな「体験」を提供しようとし、画一的なショッピングセンターとは違った存在感を放つようになる。各店舗が競い合うように数値をあげようとし、商店街が活気にあふれベンチャー商店街として他の商店街にはない、活力を産み出している。

    講師陣レビュー
    • 影山裕樹

      いろいろな方にヒアリングをされて、リサーチもされ、データも用意してプレゼンまで持っていっているのがすごいですね。特に印象的だったのが、大型ショッピングモールは効率型の購買体験であると。商店街の個人店は、体験型の購買体験であると。この区分けをすることによって、ショッピングモールを排除していないで共存させることができるところが素晴らしい。商店街が良くて、ショッピングモールは良くないみたいな言い方をあえてしないところがいいですよね。でも正直、データの使い方はあまりイメージできていなかった。どういうデバイスを使うのかというのは、もうちょっと整備したほうがいいかなと思う。デジタルサイネージを使うというのも良くて、お年寄りって、たぶんスマホアプリを使いこなせないと思うんですね。お年寄りを排除しないというのも、すごくいいポイントだなと思いました。

    • 山田興生

      ヒートマップにするということで語られていた中に、技術的背景みたいなところはあまり語られていませんでした。別にそれはいいと思うんですね。そこは語らないとすれば、いくらでも仮想の世界を拡張することは可能だと思うので、課題の一歩外に出た、例えばショッピングモールの中にも、こういうシステムがあって、これが商店街と、実際に見たビジョンがどう違うと面白いのかとか、例えば商店街以外のエリアとかほかの県とか、最古の商店街の一つと説明がありましたけれど、ほかにもそういった同じ時期にできた商店街は日本全国にあると思うんですよね。そういうものと比べたときに、例えば、どういった違いが生まれ得るのだろうかということとか。あと、今回の場合は実際のヒートマップをそのまま実際の消費者とか住んでいる人に提示するという話がメインだったと思うんですけど、それを分析する側に提供するみたいな可能性も語ってもらえると、僕は結構楽しいかなと思いました。

    • 水野大二郎

      今、山田さんがおっしゃったこととかぶってしまうんですけれど、ショッピングモールと比較するとどうでしょう。あるいは、例えば、東京の戸越銀座みたいなすごーく長い商店街と比べるとどうでしょう。あるいは、高齢者が主に集う巣鴨の商店街と比較するとどうなんでしょう。このように、他の場所と比較し、突き詰めて考えてみると、ここの特別な個性は何かが見えてくるかもしれないですよね、というのが一つ。  もう一つは、どんな体験が各店舗でこれから展開されるのかを、考えてみてもよいかなと思いました。ものの消費だけじゃなくて、時間を消費する。そこで消えていくもの、出来事もお金を払う対象になるとしたらば、どんなお店がこの商店街に集まるとヒートマップが赤くなり得るのか。こういう観点から「こういうお店に来てもらえるといいですよね」というのが出てくるかもしれません。ボーネルンドみたいに子どもが遊ぶ場所なのかもしれないし、場合によっては直接的にお金を儲けない施設なのかしれませんが、新たにそこにいる理由やきっかけが生まれうる時間消費の施設があっても面白いかもしれませんね。

    RADLOCAL2 座談会

    最終日(11月3日)のプレゼンテーションの後に、講師達とYCAMスタッフによる公開座談会が行われました。そのテキストを公開いたします。(撮影:萱野孝幸)

    登壇者:水野大二郎 影山裕樹 山田興生 石川琢也(YCAM) 安藤充人(YCAM) 今野恵菜(YCAM)

    ● 石川 これからは、講師の方を含め、あとは僕、地域開発ラボの石川と、YCAM制作ラボのお二人にも一緒に話していただこうかなと思っております。YCAMラボの安藤充人と、今野恵菜です。これまでの振り返りということで、1時間弱ぐらいお話できればと思っております。
    まずは率直に、お三方から感想というか、振り返りをよろしくお願いします。

    ● 影山 非常に充実していて、この短時間で、ここまで発表に持ってこれたのは素晴らしいなと思いました。ぜひ実現してほしいプランがいっぱいありました。あとは、これらのプランに対する地元の人のフィードバックがどれだけあるか。今後、地元の人とどうコミュニケーションを取ってプランを温めていかれるかが楽しみです。

    ● 石川 ちょっと補足ですが、今回、発表されたものは、また商店街だったり、湯田温泉のところで、広く、住んでいる方に見てもらうための展示だったり、ディスカッションの時間を別に、今年度中に設けようかと思っております。

    ● 山田 非常に長い間いきなり会った人たちと、しかも何人かの人たちにとっては知らない土地のことを考えるって、すごくエネルギーが要ることだと思って。ひょうひょうとは見ていたんですけど、実は本当にすごいなと思っていました。非常にお疲れさまでしたというのが、まず最初です。一方で、僕が参加者だったらどうしようかということを常に考えながら観察していました。僕も何かを持ち帰りたいということがあったので。そのときに他のグループが、どういうプロセスで、どういう課題をブレークダウンしているのかとか、プレゼンテーションまでの、何かメソッドみたいなものを1個、抽象化して持って帰ろうっていうんですかね、そういうところを意識することを、僕は仮想の参加者として、すごく考えていました。
     もう1点、今回僕はデータの担当として呼ばれていると思うのですが、1個1個のデータって、一見大して面白くないことがほとんどです。ただ現実の枠を1回外して、例えばこのデータが手元に過去100年分あったらどうだろうとか、世界中で取れたらどうかとか、解像度がものすごく高いものがあったらどうだろうというような仮定をおいて、そのビジュアルを頭で思い浮かべてみるみたいなことをするんですね。そういう広がり方みたいなのを、もうちょっと見たかったなっていう。影山さんも言われていましたけど、縦と横の広がりっていうんですかね。そういったところをビジュアライズなり、データの扱いなりの作法として取り入れてほしかったなというのは、ちょっとあります。

    ● 水野 皆さん、3日間お疲れさまでした。本日で4日目ですよね。祝日と休日を潰し、大変ご苦労さまでした。横断幕を見ますと、「デジタル世代の『地域×メディア』を問う集中ワークショップ」って書いてありますね。地域やメディアに関しては個人的にも参加者の皆さんの多くにとっても親しみのあるテーマだと思います。そこにデータセンシングを差し込んで考えたときに何がしかの問題がワークショップの参加者に起きるだろうと思っていました。 いわゆるまちづくり系、コミュニティデザイン系、ソーシャルデザイン系の実践者の人たちや研究者の人たちが用いている定性的手法。 データサイエンティストとか、コンピュータサイエンスの人たちがすごく好きな、定量的なアルゴリズムの世界。これらをどう握手させるかということ、これがまず一つめの問題。
     二つめの問題には、それを持って解決案を出すことです。まちを理解するのみならず、異なる手法を統合して提案を創出することが難しいだろうなと思っていました。
     現在、東京ではアイデアソンとか、ハッカソンとか、メイカソンとか「ソンソンソンソン」言ってるイベントが多くあります。何か「やった気になる機会」はすごく多いんです。やった気になるが、実際すごい困難に直面するようなことはないし、やった気になっただけで持ち帰るものが少ない点がこういったイベントに対する個人的な問題意識としてありました。
     こういったイベントにおいてデータ系、電子工作系、Web系、まちづくり系、ビジネス系と、全部を複合的に、横断的にやることはあまり見なかったです。そういう機会も、本当はすごく大切なんだけれども、あんまりない。結果として、今回のワークショップではジャンルがめちゃくちゃ横断的で、それぞれにどう橋をかければいいのかわからないが、かける方法は提案しないといけないという意地悪な状態に、ゲストとして呼ばれた我々も参加者のみなさんも直面しました。その振り返りとして、こういう架橋の仕方なら可能性があるかもしれない、こういう考え方ならいいんじゃないか、こういう人材のこういう知見を挿入できればいいんじゃないか、といった話をうまく振り返りとして最後にできるとよいなと思います。地域の問題、メディアに関する問題、データセンシングに関する問題といった問題群と、テクノロジー、デザイン、ビジネスといった領域を横断し架橋するのが今日求められるイノベーションに対する視点だとすれば、それをどのようにみんなで達成できるのか、ということを振り返りとして考えられればと思います。

    ● 石川 ありがとうございます。では、先にお二人からも。今回、(YCAM)今野さんは、ずっと後ろで見ていたわけで、積極的にグループに参加するわけではなかったのです。YCAMのラボとして、技術的な話だったりもするので。まず純粋に、どう思ったのかを聞きたいなと思って。

    ● 今野 皆さん、本当に長いあいだ、お疲れさまです。私は本当に今回、参加というよりも。というか、ここでお話したこともなく、後ろからちょこちょこ出てきて、映像機材がおかしくなったら、何だかステージにいる人ということだったんですけれども、今、めがね、全員かけていますね。すごい。私以外、全員めがね。

    ● 山田 普段は、かけないですよ、僕。

    ● 今野 本当ですか。ありがとうございます。仲間に入っていただいて。ああ、すごい。圧倒的にマジョリティになれる(笑)。皆さん、すごい優しい。ありがとうございます。
     後ろから見ていた感想ですが、先ほど水野先生もおっしゃったように、何とかソンとか、ワークショップって、結構、危険なパターンが多いなと思っています。特に今、おっしゃられていた、横断的なことをやる場合ですね。いろんな、他分野の人が関わって、横断的なことで何かアイデアをつくるということになると、足場がふわふわしてしまうことによって、すごく、しゃばしゃばしたっていうか、薄められたような内容で終わってしまったり、何かやったつもりになるだけで終わってしまったりというケースが見られると思います。今回のワークショップは、参加されている方も、何か最終的に自分のところに持ち帰ろうという姿勢がすごく見られたし、講師の方々も、それに対して、すごく誠実というか、何か、きちんとこの場を介してお土産があるようなワークショップになるような、全体でつくっているような雰囲気があって、すごく良いなと思って見ていました。
     あと、先ほど、プレゼンテーションの中で、どなたかがおっしゃられていた、この構造を分解して、普遍的なものにするというようなお話があったと思うんですけれども、アイデアの出どころをきちんとすることで。今回は湯田温泉街や商店街に関するアイデアをつくっていただいたわけですが、このアイデア自体を実走するということとは別に、今回のアイデアを出すまでのプロセスみたいなことをきちんと体に入るようなステップで、どんどん積み重ねていくことができたので、これは何かお土産ものとして、皆さんに持って帰っていただけるのではないかなと思って、すごく有意義な時間だなと思いました。

    ● 石川 ありがとうございます。安藤君は、ちょっと質問を変えてですね、発表されたものがいろいろあったと思うんですけど、その中で、ラボとして、ラボとしてじゃなくても、個人でもいいんですけど、その中で、こういうところが気になったとか、これは自分の中で興味が深いものとかはどうでしょうか?

    ● 安藤 皆さん、発表、お疲れさまでした。幾つか見させてもらった中で気になったものを挙げるとするならば、湯田温泉の夜のまちをオレンジ色にしたいというか。センサーを使って、活動量も取りつつ、色も変えていきたいみたいなアイデアがあったと思います。これを個人的に解釈すると、仮にセンサーができたとして、それを配布というか、ばらまいたときに、どうやって実際にネットワークとつなげようかなというのは思いました。昔というか、今、ソフトバンクがやっているサービスの中でFONというプロジェクトがあったと思うんですけど、余っている回線、通信をみんなでシェアしようみたいなこととつながっていくのかなと。その辺の余剰を活用するというようなところは、宣言をシェアしていて、壁に使うみたいなこともあったりして、非常に共通する点が幾つかあって。今ある既存のサービスの中でも、既に展開しているアイデアもあるので、そこと、どうつなげようかという話になっていくのかなという印象を持っていました。

    ● 石川 ありがとうございます。さっき水野さんが仰られた、過小なものの、最適解というものについて少し伺えれば。

    ● 水野 ああ、希少資源の最大化じゃなくて、余剰資源の最適化。

    ● 石川 そうです。今回の話を聞いていて、やはり、まず着眼点を見つけるというところで、ネガティブとされているものをどうするか、みたいな話がいっぱい出てきたと思いますが、僕としては今後、今回の話を、ここで発表だけではなくて、繋がるものとしてしていくのがひとつの役目だと感じています。その点において、プレゼンテーションが終わったあとに、講師の方々が、その話をどんどん広げていって、こういう見方もあるっていうのを広げていく過程がよかったです。すごく肯定的にというか、ここはこうしたほうがいい、こんな可能性があるという話をしていたプロセスがすごく面白くて。そういったものは、ここだけではなくて、実際、その場所に行って、そこに住んでいる人たちと話すということも、すごく大事なのかな。その実現のために動くということも必要なのかなと思いました。こういう話が出たということまで含めて、それを伝えることをやりたいなというふうには思っております。

    ● 影山 さっき水野さんが○○ソンが流行っているとお話しされていましたが、例えばメディア系のワークショップもすごく多いんですね。みんな、どういうモチベーションでやってくるかというと、要はお年寄りのパソコン教室みたいなもので、技術を学びに来る。そうすると、自分の欲求をどういうふうにアウトプットするかという、そもそもの、基本的な部分を持ち帰ることができない。ちょっと文章が書けるようになりましたとか、ちょっと写真を撮るのがうまくなりましたというふうになっていて、結局、欲求を最大化させる方法っていう、一番大事な部分が抜けているパターンがすごく多い。そこは本当に、僕も気をつけていたし、皆さん、最終的に、それぞれの方々の欲求に忠実なプランを発表していただけたのが、すごく良かったなと思いました。

    ● 水野 そもそも話みたいなところですよね。何とかソンとか、何とかワークショップとかは基本的にすぐ持ち帰れる手法、視点、体験が売りになっていますが、持ち帰ったからといって「自分に燃えたぎる何か」がないとやらないし、継続しない。ノリでワークショップに出て何か新しいものづくりのスキルを覚える、みたいなのってたくさんあるんだけど、「つくるのは大変だ、一消費者として消費社会の中で埋もれていくんだ。じゃあ帰りにコンビニにいってビールでも買うか」みたいになったら切ない、でもそれが多くの人にとっての現実なんじゃないですかね。
     だから、短期的なビジョンを求めるのではなく、参加者の根源的な欲望とか、切実なニーズとかに訴えかけるのが石川さんたちの務めなのかもしれないですよね。実際、参加者の中の何十%の人が「よし、明日からヒートマップつくるぞ!そのためにデータを探すんだ。CSV、CSV、、、」とやるかどうかは分からない。けれど、やる動機を明確に引っ張り出すように仕向けるのが全体のファシリテーターの務めになるのではと思います。

    ● 石川 頑張ります、としか言えませんが大丈夫でしょうか。

    ● 水野 うん。頑張ろう。頑張ろう。

    ● 石川 はい。昨日も、今日もいろいろな話の中で、YCAMの役割みたいなものが結構出ておりますね。言葉は、あまり出てこないんですけれども、いろいろ含むものも含めて、やっていこうと感じています。

    ● 今野 先ほど、水野先生とかとも、ちょっと立ち話でお話させていただいたのですが、YCAMとしても、商店街にプロジェクトを発展させていくという取り組み自体は、実は何度か、トライとしては行なっています。2013年度は商店街のほうに幾つかアーティストを招聘して、そこで作品を展開していただいたり、YCAM自体が主催して、YCAM DOMMUNEというかたちで、一時的に、クラブと呼んだらいいんでしょうかね、イベントをするスペースを運営していたりということをやっていたんですけれども、さっきお話もあったとおり、やっぱり興味がある人は来てくれる。 で、そもそもYCAMのことを分かっていない人は、「うん?」っていうふうな目線があって。それは解決しなければいけない、そもそもの問題だと思うのですが。
     それとは、また別に、そこで作品を展開されていた方の中に、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、とくいの銀行っていうプロジェクトをやられていた、お名前、ど忘れしちゃった。

    ● 石川 深澤さん。

    ● 今野 そうですね。深澤さんがやられていたのは、いろんな人を巻き込む型のプロジェクトなんですね。いろんな人の得意なことを貯金、貯蔵してもらって、それを誰かが引き出すと、その人が出張して、その得意を執行しに行くようなプロジェクトアートというか、そういうものだったんですけれども、もはやYCAMとは独立して、深澤さんファンが発生するみたいな状態とか、それを通じてYCAMのことを知ってもらうみたいなパターンが、すごく起きていました。何か設置するというより、みんなを巻き込むみたいな力が大事なんだなというのは、その年を通じて感じたことでしたね。そういう展開をしていければいいのかなと思います。

    ● 石川 今回、サポートで入ってくれたスズキヤス君が、今年の夏に開催したコロガルパビリオンのプレイリーダーだったんですね。彼とまちを歩いていると、YCAM周辺の子どもは、ほぼすべて彼の顔を知っているし、名前を知っている。そして必ず声を掛けるという状況があって。これはもう、完全にタレント化していますよね。作品自体というより、そこを通じて、この人と会って、つながっているというのは、先ほど言われたみたいな、作品がインストールされるということよりも、彼はパワーという意味で数字を持っているんじゃないかという気がしていて。そこは結構、希望があるなって、一緒にまちを彼と歩いていて思いました。

    ● 影山 悪いことはできないっていう感じでしたね、彼と歩くと。

    ● 石川 そうですね。(笑)

    ● 今野 安藤さんはもう、博士ですし。子どもの中では。私も「恵菜ちゃん」というふうに呼ばれて、引き留められて、急に何か、飛び乗られるみたいな状態で。本当に悪いことはできないなっていうのと。

    ● 安藤 むしろ、いいことをどうするかということだと思うんですよね、そこは何か。

    ● 今野 そうですね。

    ● 安藤 いい意味で、子どもに対して何かを仕掛けるみたいな。物ではなくて。人でつながっているのが、やっぱり一番強いですから。

    ● 石川 そこを継続的にやっていくというのは、もちろんあるんですけど、加えて、それだけではないアプローチをもう少しやっていかなければ。これから地域開発ラボに関して、特に深く潜る必要があるのかなというのは、思ってはいるところです。さっきの偶発的に生まれるものは、もちろんあるんですけれども、ある程度のタクティクスというんでしょうか、そういったものも築きつつやりたいなと感じています。もちろん、始めの僕の発表で言ったような、何もしていないままだと選択肢がどんどん狭くなってしまうっていう未来は、どこも、多かれ少なかれ起きますよっていう話だと思うので、そこは、失敗出来る状況づくりも含めてですが。

    ● 影山 YCAMって本当にいろいろなテクノロジーを研究されていると思うんですけど、じゃあ地域開発ラボにはどんなテクノロジーが必要なのか、ということです。それはネゴシエーションだったり、イベントのオーガナイズだったり、プロジェクトを推進する人間力のようなものですよね。昔、出版社にいたときに、『野外フェスのつくり方』っていう本をつくったんですね。それは、昔だったら、バンドマンになりたい、歌手になりたいとか、DJになりたいということで、みんなプレーヤーに憧れていた。最近はオーガナイザーとか、プロデューサーに憧れる人が増えてきた。
     例えばアートの現場だと、アーティストになるんじゃなくて、北川フラムさんのようなプロデューサーとか、キュレーターになりたいとか。『キュレーターになる!』っていう本もつくりましたけれど。そういうかたちで、裏方なんだけど目立ってくる人。自分で物はつくらないけど、人につくらせる人昔から興味があったんです。野外フェスも、大きなフェスでもコアメンバーが2、3人というところもあります。本当に基本的なインターネットとかパソコンの知識をうまく使って、少ないコストで、大きなイベントを仕掛ける、成功させる。しかもトラブルが起きないようにするみたいな。それもテクノロジーだと僕は思っています。
     もちろん、本をつくるとか、メディアをつくるというのもテクノロジーです。今回のワークショップを通して、そういう目に見えないテクノロジーについてすごく考えさせられました。こういう地域の文化施設が地域へとアウトリーチしていくときに、どういうテクノロジーを手に入れていけばいいのかということを、今後、石川さんにも考えてもらえるといいかなと思います。(笑)

    ● 石川 個人名で言われるのと、なかなか、ぐっとくるものがありますね。

    ● 山田 さらにじゃあ、石川さんにもうちょっと考えてもらえたらいいかなと思うのは。

    ● 石川 畳み掛けがすごいです。(笑)

    ● 水野 仮に何らかのデータを可視化することで何らかの合意形成のための材料となり新たな活動領域を拡張をつくろうとして、どうやってデータを取ってくることが可能になるか。他人のデータだったら例えば、同意書を書くみたいなことがあるかもしれない。至るところにセンサーを設置する許可証の入手もYCAM館内なら容易かもしれないけど、まちだと格段にやりづらい。定量的データも定性的データもプライバシーに関わることが多いので、ちゃんと同意、許可などの下ごしらえあっての話だと思います。そういう下ごしらえをした上で、定性的、定量的データを等価に扱いながら、組み合わせて、何か新しいアイデアを創出する、みたいなことをするためには、「下働き系」、「組み合わせを考える系」、「そのあいだをうまくつなぐ系」といった、今までの人材ではまかないきれない活動をしなければいけなくなるでしょう。
     一言で言えば、それが新たな「編集行為」だと思うんです。
     今後、現状の皆さんの職能にこの新たな編集行為を付けないと活動しにくいかもしれない。でも全てを一人で実装するんでしょうか?皆さんはどうやって、どこまでやりますか?
     一人でできなかったら、この部分は人に頼もうということになると思うんだけど、それでも必ず「つなぎしろ」はつくらないといけない。「つなぎしろ」を自分で何個つくれるようにしておくのか、という問題も起こりうるだろうと思います。例えばこのプログラミング言語ならこれはできるはずだ、とか、センサーやアクチュエーターにはこういうのがあるはずだ、と知っているとか。そういう基本的な理解があることで、つなぎがちゃんと生まれるんじゃないかと思います。さっき、影山さんが地域開発ラボには、別のテクノロジーが必要なんじゃないかということを言っていたけれども、翻って、われわれの振り返りとして考えてみると、この問題は、どういう「つなぎしろ」をうまくつくり得るかということに展開していくんだろうなと思いました。石川さん、頑張ってください。(笑)

    ● 石川 はい。ありがとうございます。頑張ります。山田さん、さっきの話を、少し。

    ● 山田 合意形成という意味で、僕が思い出していたのは、Airbnbのホストをするっていうことと、関連があるのかもしれないを思っていて。シェアリングエコノミーっていうような今まで固定的なリソースだったものが、どんどん柔軟性を持ってシェアされていくということのすごくイノベーティブな部分もあるし、一方で既存のいろんな価値観との摩擦もあるとか、そこに関わるいろいろな人たちがいます。端的には、例えば僕が家に海外の人を泊めていて、隣の人にとって、何が起こっているか分からない状況は非常に怖いわけですよね。そこで合意形成する。合意形成という言葉もおかしいんですけど、要は、相手が不安に思うことを解きほぐすためにはどういうステップがあるか。みたいなことは、はじめるときに本当にものすごく細かく考えました。結果、今すごくいい状態で、仲よくさせてもらっているし、そういうスキルやプロセスを自分の中でも、もっと言語化したいなという思いがあります。

    ● 石川 恋愛的な感じですか。

    ● 山田 まあ。

    ● 石川 人的な関係を、どうプログラミング的につくるかっていう話ですよね。アルゴリズム、条件をどうつくるかっていう話ですよね。

    ● 山田 まあ、そこまでいけないだろうと僕は思っていて。コミュニケーションって、すごく文脈依存性が高いじゃないですか。だから、今回できたことが、またできるとは限らないっていうのが、プログラマとしての、僕の戒めというか、一方で持っておかなければいけない価値観なんだなと思ってます。

    ● 影山 そうですね。結局、そういう目に見えないスキルとか、テクノロジーによって僕らは生きている。『生き延びるためのデザイン』っていう本もありますけれども、まさに武器であり、装備であり、ほとんどの人が、まだそういう技術の大切さに気づいていない。フェスティバル/トーキョーっていう芸術祭に編集者として関わっていたんですけど、野外公演がすごく多かったんですよ。野外公演って、雨が降ったら終わりなんですよ。雨が降ったときに、どういうサブのプランを考えておくかってすごく大事ですよね。屋外って、本当にいろんなリスクがありますから。制作の人たちが、そういうリスクやトラブルに対処するスキルをすごく持っていました。そうしたスキルを持っていないと、雨が降って中止になって、待たせたお客さんから大ブーイング、みたいなことになってしまう。そういう現場を見ると、ああ、ここには制作のスキルが足りないなと思います。
     キュレーターとか、ディレクターとか、プロデューサーが前に出過ぎていて、その下で働いている人たちのスキルが可視化されない、言語化されない状況にも危惧しています。裏方の技術ってなんだろう? ということを、最近立ち上がった芸術公社というNPOのメンバーともよく話したりしますね。
     そういうスキル、テクノロジーを言語化するということを、こういう地域のR&D的な施設であるYCAMこそ、考えていってもらいたいですね。

    ● 石川 では、30分ぐらい経過したので、質問を幾つかお受けできればと思いますが。何かご質問のある方、挙手を。

    ● 参加者 すみません。質問じゃなくて、情報共有の話なんですけど、僕の地元の埼玉の秩父というところに、横瀬町っていう私が生まれたまちがありまして、8,000人ぐらいの人口です。そこで10月から、よこらぼっという企画が始まったんです。これは、大学とか企業が、そのまち全体を実験のフィールドとして使っていいっていうかたちで、まちがそういう企画を募集することが始まったんですね。8,000人のうち、今、2,000人くらいが協力してくれることになっていて。例えばアンケートとか、どこかで集まって何かやりたいと言ったら、まちが人を集めてきて、そこで何か実験するということをやっていて。DropboxとかIBMさんとかが、今、すごく小さいまちなんですが、集まってきているということが起こっています。
     さっき言っていた、YCAMと地元の人がつながれてないとかいう話の、解決の一つのモデルというか、ヒントになればなと思ったんですけど、これがうまくワークした理由が、町役場の、町長がすごくウェルカムな人だというのが一つと、もう一つ、まちとむちゃくちゃつながっている、すごいキーマンの役場の人がいるんですね。あいつが言うんだったら、どこでも集まってやるっていうキーマンがいて、その人を捕まえたっていうのが、すごくうまくいっていて。実際、運営しているのはリクルートなんですけど、っていうケースがあって。なので、たぶん、どこにもいると思うんですけど、地域のキーマンみたいな人とつながるのは、すごく大事だなと思いました。っていうのを、今、話を聞いていて思い出したので、ちょっとお話させていただきました。
     感想は、4日間ありがとうございました。まず、何て言うか、僕らのチームって、マーケティングとかをやっているメンバーだったので、面白いというよりは、課題から逆算していく考え方で面白さがうまくブレイクスルーできなかったなというのは、すごい反省点です。なので、それだとうまくいかないとか、それだと課題が解決できないっていう枠から、1回、頭を外して、これとこれを組み合わせたら面白いっていうことができない思考法になってしまっていたんですけど、それが他のチームだとできていっていることがあったので、そこは、すごく参考になったなと思いました。

    ● 参加者 その、面白くできなかった、もう一方(ひとかた)なんですけど、まさにそう思っていて。変な意味じゃなく、僕らのチームは大学生さんがいなかったのが、実は大きかったんじゃないかと個人的に思っていて。学生だからできないとか、そういうことではなくて、どうしてもリアリティのある話に落とし込んでしまう癖が出ていたところがあって。そこに「えっ、それは何でですか」とか、「何で、これができないんですか」みたいな、素朴なはてなを投げかけてくれることがあったら良かったのかもなという自己反省はありました。
     案外、実は、そこを考えられたんだと思うんですけど、この組み合わせで、たまたま僕らのチームにはいなかったんですけど。

    ● 影山 よそ者、若者、馬鹿者って言うんですけれども、本当にそれを組み合わせることが大事で、ローカルメディアも結局そうなんですけど、キーパーソンが外にいたりする。その人がふつうの人の10倍ぐらい働いてくれるから、ようやく面白いものができたりする。そういう人を見つけていくのも、一つの技術かなと思います。
     あと、面白さって本当に大事で、面白いものには人が寄ってくる。お金も集まってくるんですね。だから、マネタイズから考えるのではなく、面白いものには人もお金も寄ってくる。「面白い」しか言ってないんですけど、そういうやり方もあるかなと思います。

    ● 今野 何だろう、あと、面白がる技術みたいなのもあるかな。すみません、急にしゃべりだして。

    ● 山田 それは結構、重要なことですよね。

    ● 今野 すごく自分の反省というか、面白いポイントを見つけていくって。たぶん、今回、参加されている皆さん、そんなに湯田温泉とかね。山口市の方もいらっしゃったんですけど、切実な問題ではないかもしれないところに、どんどんどんどん自分の欲求みたいなものを発見していくのって、たぶん、それはそれですごく一つ大事なことなのかなって、自分も反省で思いました。

    ● 水野 面白がらせるっていう、芸人的な話と、面白がる、知的好奇心を広く持っておくっていう話があると思うんですけど、今回ね、この暗い、黒い、大きな部屋で笑いが取れなかったことが非常に悔やまれまして。

    ● 影山 いや、結構ね、悔しかったな。

    ● 水野 非常に悔しい。

    ● 山田 マジで。

    ● 水野 プレゼンテーション資料をつくりながら、「よし、天丼だ」って言って。「私の家、ゴジラに壊され、津波で流され、2回もやるぞー」みたいな。まったく笑いが起きない。どういうことだって、おかしいと思ったんだけれども、やっぱり、うーん、技術がーと思いました。

    ● 影山 ああいうの、結構ね、来るものがあるんですよね。

    ● 水野 来るものがあるんですよね。

    ● 山田 来るものがあるなあ。

    ● 水野 関西人に、「2回言えば、何でも人が笑うから」っていって、「それを天丼って言うんだよ」って言って、「なるほど」って言って。ハラダくん、ね、もう1回ミーティングします。

    ● 山田 そう。面白がる。皆さんがワークショップで、例えば足湯っていうものを細分化していくとか、商店街っていうものを要素で分けるっていうことをやっていらっしゃいましたけど、基本的にはああいうことの延長にあると僕はいつも思っていて、何かそうやって、見方を変えていくというか、足湯を足湯そのものとして扱うんじゃなくて、その中の一要素を、全然違う世界のものと同じものとして考えるみたいな。
     だから僕さきほどちょっと話したと思うんですけど、モバイル足湯ではなくて、あれが伸縮性のある仮想化された足湯であるみたいなことを考えたときに、クラウド化したことでコンピュータで世界はどうなったんだろうみたいなことを、そのまま足湯の将来に無理矢理掛け合わせて、何か想像というか、妄想できるんですよね。その延長に、全然違ったジャンルの人とも話せるきっかけが、いろいろあるんじゃないかなというふうに思います。

    ● 水野 あれですよね。松岡正剛さんが、『知の編集術』っていう本とかで、64の編集技法みたいな。

    ● 山田 64もあるんですか。

    ● 水野 あるんです。すごく単純なことで、大きくしてみるみたいなことであるとか、分類してみるみたいなことであるとか。フィールドワークにおいて人工物をどう見て解釈するのか、と同じようなことが書いてあります。山田さんが言ったようなことも、そのまま書いてあるんですよ。クラウド化するとはどういうことかを想像するための視点が、これだけあるよと提示されています。
     ただし、重要なのはこのような編集工学の話は歪曲するとただの手法の話になってしまうんですよね。最終的に「面白がる」とは、その手法を使いこなせるようになることと同義だと思うんです。けれども手法ばっかり勉強しようとすると短期的な成果をとにかく求められる今日の社会状況に近づいてしまう。すぐに成果を出さないと。自分と同じような年代の人は、インターネットで見るとこんなにすごいことをやっている。自分が恥ずかしい。みたいに不必要に「焦りすぎる問題」へと接続してしまう。ゆっくりと、自分だけの「面白がる視点」を身に付けてほしい。下手したら5年とかかかるかもしれないけど、いいんです。1発当てればいいんだから。2発当てたら天才ですよ、本当に。1発当たるかどうかも当たらないんですから。

    ● 山田 それ、ピコ太郎が言っていましたよね。

    ● 水野 本当ですか。良いこと言うな。

    ● 山田 そうですね。手段、そういう編集技法を学ぶのが先じゃないっていうのは、本当にそうですよね。僕も確かに、そうやって学んできたわけではなくて、たぶん、あらゆる人って、自分の好きで好きで仕方がないものがあって、やっているうちに、何かそれを周りに説明しないとまずい状況になっちゃって。。
     例えば僕で言うと釣りなんですけど、ただの趣味じゃないですか。で、何の共感も得られないものですよ、本来は。ですけど、じゃあ僕がやっている釣りって一体どういうことなんだみたいなことを外の文脈と絡めて伝えるということは、周りに自分がやりたいことをやり通すためには、必要になっていったんですね。だから、それは結構自分に課しているところもあって。わざとそういう話をちょっと関係ないところでも無理矢理やることを、結構僕は意識的にやっています。そのきっかけって、技法を学ぶっていうよりは、好きでしようがないから、そういう順番なんだなっていうのを、今、水野さんの話を聞いていて思いましたね。

    ● 影山 そうですね。いかに時代がインターネットで、IoTとか言われても、やっぱり僕は、その技術を身に付けようというモチベーションが全くなくて、紙の編集しかできないわけですけれど。『新しい骨董』メンバーの山下陽光さんは、「インターネットがストリート」っていうことを言っていて、かつての路上感覚がインターネットにもあると。それは、パソコン通信の時代とかもそうだったと思うんですけれども、とにかく今は、ゼロベースで、何でも、洋服を着るのと同じように、プログラムを学んでもいいし、書き方を学んでもいいし、自分の好きな技術を、適宜身につけていく。それこそが生き延びるための技術なんじゃないかなと思っているんです。そういう意味でメディアの技術について考えてもらいたかった。行政の人たちって、行政の人だけじゃないけれど、メディアをつくることが目的になっちゃうんですよね。
     目的って本来、別のところにあるはずで、究極的には、フリーペーパーなんかつくらなくても目的は達成されるかもしれないのに、そこに予算がついて、つくらないといけないという状況になってしまう。あくまでメディアって、手段でしかない。目的と手段を入れ替えることから、まず始めたほうがいいのかなっていうふうに思います。

    ● 今野 本当にそうだと思います。YCAMでも結構、キッズ向けのワークショップを行なったときとか、例えば、パブリケーションマシンみたいなものとかが、今、すごく知名度があって、何か電子工作のワークショップとか、そういうのを使ったワークショップをするよって言うと、それが使いたいから来たのに、みたいな話をされたりとか。何か新しい技術を使うことが目的になってしまっている例がYCAMの中でも、私は、外で別のグループも持っているんですけど、そういうところでワークショップをしても、かなり多くて。何か、一番最初の、本当の目的って何だったんだろうみたいなことを忘れないで、いろんなことに対して面白がって、かつグループでやるときは、その面白がりに柔軟性を持って固執しないことが大事なのかなと思っていますね。
     あと、自己欲求みたいなのを、ある程度、はっきりさせておくみたいなこととか。

    ● 安藤 そういう話でいくと、昔、YCAMで、デジタルファブリケーションのツールを学べますというような募集項目で、参加者を募集したことがあるんです。実際、来てもらって僕が対応したんですけれども、彼らに伝えたのは、このワークショップでは何もつくりません。ほぼ何もつくらないワークショップとして、そのときは構成していたんですけど、一体、自分たちの欲求はどこにあるのか、そのツールを使って何をしたいのかということを根本から探してもらうために、あえて何もつくらないと。
     ただ、何をつくりたいというのを、ひたすら身の周りのものから見つけていくというような流れで構成していたものもあったりしました。

    ● 今野 ただ、そういうのをやると、小さい子が泣いちゃったりするんですよ。「自分のつくりたいものなんて、分かんない」みたいなことを言って。ただ、それでも、泣いても考えろって言ってやるんですけど。そのベースとして、そういうのが結構逆転してしまっている時代なのかもしれないなと思ったりしますよね。
     ただ、面白いアイデアもたくさん出てきて。おじいちゃんのお墓を、いつでもお参りしたいから、3Dプリンタで出すみたいな子とかいましたね、確か。

    ● 安藤 ありました。

    ● 今野 うん。

    ● 水野 じゃあ、おじいちゃんのお墓のデータが常にクラウドにあれば。

    ● 今野 そうですね、もう。

    ● 水野 最高ですね。

    ● 今野 ポータブルお墓掃除とかできるっていう。

    ● 水野 最高ですね。あと、GitHubに載せておくと、オープンソース化します。みんなお参りできます。

    ● 今野 みんなお参りできます。

    ● 水野 そんなネタの展開もできるといいと思うんだけど、今回は特に、センシングと定量、定性的データアナリシスが重要だったと思います。でも、ちょっと前までは3Dプリンタで何か出力するっていう話だったんだろうなと思うんですよね。ところが現在、毎日3Dプリンタを使っている人ってそんなにいっぱいいないですよね。仮に3Dプリンタの使い方をきちんと覚えたからといって、毎日スマホケースをつくるわけでもない。多くの人はスマホを1−2個しか持っていないし、毎日着せ替えるわけでもないですし。つまり、短期的には「何のために俺はこの技術を身につけたんだ」みたいなことに陥ってしまう。技術を身につけると目的をうまく見つけられるためにどうするか、という話に戻る気がするんですね。手段と目的や編集行為に関する話が、今日の振り返りのテーマとしてあるのだろうと思いました。
     編集行為に関してはアイデアの出し方に関する視点もあり、その部分も考えなければいけないだろうと思います。いろんな利害関係者とまちで活動することの中には技術やデザイン、公共政策の話まで入りますから、基礎的な部分をつくるとかいうのを誰かがやらないといけない。そんな専門家はいないので、自分たちでちょっとずつ「関わりしろ」を増やして、頑張って活動するしかないなと。全部、石川さんの肩に乗っかってきているんですけど、石川さん、大丈夫ですか。皆さんも大丈夫ですか。

    ● 石川 本当にそうですよ。僕は今、完全に縮こまってはいないんですけど。責任というか、淡々とですね、頑張っていこうと思っています。

    ● 水野 いや、本当に僕ね、現実的に不可能じゃないかと思っているの。

    ● 石川 そうですね。

    ● 水野 一人でやるのは。

    ● 石川 いや、一人じゃないですよ。皆さん。

    ● 水野 はい。だから、一人じゃない、みたいな感じで、最後、歌って。何か、チャンチャンってやるのかどうか分かんないけど。

    ● 石川 どうなるかは分からないですね。

    ● 水野 YCAMは箱として、何をしてくれるんですか。

    ● 石川 ちょっと待ってください。もう一回言ってもらっていいですか。

    ● 水野 石川さん一人では無理って言うんだったら、YCAMは箱として、石川さんをどうやって支援して、山口市や山口県とともに、まちをどうやって活性化していくんですか。

    ● 石川 答えとして合っているか分からないですけど、僕は初めに言ったように、選択肢があるうちに、いろいろなものを提示して、できることはやっていく、それしかないかなと。

    ● 水野 さっきの秩父の話だったら、「地元の人に愛される市役所のおっちゃんを見つける」みたいなのって、重要な能力だと思うんです。YCAMが今までそういうことまではやってきていないとしたら、それはどうやって今後やるのかなとかに興味があります。地域に眠れる資源にもいろんな種類があり、皆さんが活動する領域の中にも市役所、区役所、公民館のおっちゃん、商工会議所のおっちゃん、商店街で有名なおばちゃん、何だかんだいるはずです。あの人たちとうまくつながれば新たな活動ができるだろうし、あそこでああいうデータを取れば、きっと何か、こういうことができるんじゃないかとか思うのですが。

    ● 石川 そうですね。人探しという、おそらく一般の人が面白いというか、面白さをまだ見いだせていないものをYCAMが入って見いだした例っていうのは、結構、いろいろあります。吉松さんという阿東の人間だったり。そういう人たちを、フューチャーして何か一緒にやるというアクティビティも、実際ありますね。僕はもう少しYCAM周辺で、それをもう少し高めていきたいというのを、今、思っているところです。

    ● 影山 そのために必要なスキル、テクノロジーということを考えると、人を見つけることで、実は高められるんですよ。例えば、1年とか2年で変わってしまう市役所の職員と仲良くなって、飲み代に何万円使っても、本当に無駄ですよね。(笑)
     そういうのって、まず市長とかトップ、企業の社長さんとかとつながれば一発なんですよ。昨日も朝までスナック行ってしまいましたけど、本当に無駄なお金を使いました。最後のほうはカラオケで、「あなたたちにも分かる曲歌いますから、僕」みたいな感じで5曲ぐらい歌いました。そういう無駄な呑みにケーションはなるべく減らすとか。(笑)

    ● 石川 教訓なんですね。

    ● 山田 めちゃめちゃ楽しんでいたように見えましたけど。今朝、影山さんが来たときの顔色が、信じられないぐらい白いっていう状態でしたけどね。(笑)

    ● 水野 いずれにしても、地域開発ラボを通して今まで出会った面白い人たちや活動成果もいろいろ出てきていると思います。地域開発ラボ自体はできて3年ぐらいでしたかね?YCAM開館当初からあったわけじゃないし、まだまだこれからだということだと思うんです。今まで人間ー機械間のインタラクションに注力してきたYCAMが人間-人間間のインタラクションという、ある意味では時代に逆行するようなこともやらなきゃいけないかも?という状況において、どうYCAMらしく実践するのかなっていうことなんですけどね。

    ● 安藤 YCAMキッズ?

    ● 今野 コロガルパビリオンとかに来てくれている、YCAMキッズの子たち。

    ● 水野 子どもを落としてから、親を攻めるパターン。

    ● 今野 そう。そう。そのパターンは結構、YCAMは常套手段として使っているんですけど。ただ、あのコロガルシリーズ自体、最初が2011、たぶん、ここのYCAMメンバーの、誰もいないころから行なっていて。でも、そういうふうに深々とコミットしてくれている子どもたちが、高校生とか大学生とかになり始めているんです。そこを、うまく。

    ● 安藤 刈る。(笑)

    ● 今野 刈るとかは、まあ、一つ。

    ● 水野 それは、まいているわけだからね。

    ● 今野 そうですね。

    ● 水野 種をまいたら、刈ってあげればいいわけですよね。

    ● 今野 まいたら刈っていい。(笑)

    ● 水野 それでまた種をまけるようにするのが持続可能性、持続可能な地域の状態だと思うので、種を必ず取らないといけないですよ。で、必ずまた、まかないといけないっていうことだと思うんですよね。
     いずれにしても、そういう、わりと20世紀型、あるいは21世紀前半型のコミュニティデザイン話みたいなのから、また一歩、次に行こうとしている中で、今回のワークショップの運営は、すごい、いろいろな要素があって、うーんと思ったんですけど、それはもう、あれですよね。懇親会でぶっちゃければいいみたいな、そういう。

    ● 影山 そうしましょうかね。お酒もあるし。

    ● 石川 ということで、そろそろお時間が来ております。ちょっと最後、せっかくなので。

    ● 安藤 手厳しい質問とか。

    ● 石川 そうですね。これだけは、もの申したいみたいなものがあれば。

    ● 参加者 最後の短い時間で終わる気が、あんまりしない質問なんですけど。僕は今、Webのメディアの編集の仕事をしていて。わりと地方の人たちを取り上げることが多いメディアで、取り上げるときに電話して、交渉するときに、やっぱり情報発信するって地域にとってプラスですよねっていう話をして、そうだよねって乗ってもらうんですけど。
     ただ、何かそれって、ロジック的には非常に正しいって分かっているんですけど、一方で食べログ星5の店に行ったときに、この店の飯は、まずいなみたいな。身体的に違うなっていう感覚がちょっとあって。
    誰が言っていたか、ちょっと忘れちゃったんですけど、メディア時代の新しい姿は、ある種、Webと紙を脱した状態の姿っていうのになるのかなと思って。で、そのヒントが自分の知らないビッグデータを扱うみたいなところにあるのかなと思って、今回参加したんです。
     メディアっていうものが、紙とかWebとかっていうのを脱したとき、今回の発表のプレゼンの中にも、そういうヒントがあったかなっていう気がするんですけど、何か、そういう姿って、どういうものをイメージできるのかなとか、イメージしているのかなっていうのをちょっと聞いてみたいなと思いました。

    ● 影山 1日目の発表でも言ったんですけど、ローカルメディアに興味を持ったのは震災のときなんですね。繰り返しになりますが、回覧板が回ってきて、「こういうときだからこそ、ご近所付き合いを大切にしましょうね」って書かれていたんです。それを読んで、人生で初めて「回覧板、面白いな」と思ったのがローカルメディアに興味を持つきっかけになったんですけど、やっぱりメディアって、発行されることが目的ではないし、発信者から受け手に一方的に情報を届けるのではなくて、それが双方向に行き来することがメディアの本質だと考えると、「かべぽはメディアである」という発想ができると思うんですね。
     いろんな地域で編集のワークショップをするときに、「ローカルメディアをつくりたい」「フリーペーパーをつくりたい」というようなクライアント側の提案があったときに、いや、「かべぽ」をつくりましょうよって言えるようになったのが、今回、僕が持ち帰ることのできる成果だと思います。

    ● 石川 すみません、先ほどの食べログの話をもう1回説明してもらっていいですか。

    ● 参加者 ただの比喩なんですけど、食べログで星5つが付いているお店って、あらゆる人がおいしいって評価しているはずなんだけど、そこのお店に僕が行って食べた飯がまずいと思う可能性ってあったりして。それって、僕自身にとっては星5じゃなかったっていうだけ。
     ただ、何だろう、星5の店に行ったのに、まずいって言っていいのかなっていう。何か、そういう引っかかりがある。結構、何だろう、あんまりうまい言葉じゃないなって、今、言っていて思ったんですけど、何か、ロジック的に正しいことであるっていうのは頭で理解していても、それが正しいとどこかで思えない自分がいるっていう、その違和感を言いたかっただけです。
    ● 石川 なるほど。すごくロジカルに相手に交渉したりとかして、やっていくんだけど、うまくいかないところがあるということ。

    ● 参加者 うまくいかないっていうか、うまくいくんですけど何か間違っている気がするなっていう。

    ● 石川 どこか釈然としないものがある。

    ● 参加者 釈然としないっていう。

    ● 石川 なるほど。どうですかね。

    ● 山田 聞いておいて、何て答えたらいいんだと思って。その取材の入り方とかで、もう少しできることがあるんじゃないかとか、考えちゃうっていうことって考えてもいいんですか。

    ● 参加者 いや、メディアの役割って、本当に情報発信だけ。情報発信ができますよっていうところで終わるものなのかなっていう。その方向性っていう。

    ● 山田 その方向性で。まあ、乗り物なんですよね。だから、人がいっぱい入ってきて、情報や人が行き来する。そこでコミュニケーションを促進するための媒介物がメディアで、ということですかね。

    ● 石川 次、ラストぐらいですかね。

    ● 参加者 今、福岡の糸島とか、山口だと周防大島とか、島が結構、注目されているじゃないですか。
     そこで聞いたら、何か、東京のラジオ局の人が地域おこし協力隊で周防大島に来たり、詩人や写真家の人が糸島に来て、糸島は福岡で住みたいところランキング1位とかになっているんですけど、山口市は結構、中途半端な県庁所在地で、スタバが一番最後に来たり、中途半端な田舎っていうところがあるんですけど。そういう、島とかじゃない、何か、そういうところで地域づくりをどうすればいいのか。すごい過疎化しているわけでもないのに、でも徐々に衰退していくところで、どうつくればいいか。まちづくりを。ちょっと抽象的な質問かもしれないんですけど。

    ● 石川 島とかだったら、すごく過疎化も想像しやすいし、ロケーションもとても目立つし、ある種、日本の、ほかのいろんな地域と比べて何かしら特徴がある一方で、地方都市とかだと、結構、そういう問題を抱えていながらも、何が特徴なのかっていうことがいまいち分からない中、どうしたらいいかっていうような感じですか。どうでしょうか。

    ● 影山 そもそもの質問なので、ちょっと大きすぎるなという感じはしますけど。

    ● 水野 まず考えるべきは2つですよ。発展させるか、閉じるか、どっちかですよね。どっちにするか、考えないといけないっていうことでしょう。発展の仕方を考えるか、閉じ方を考えるか、「都市のたたみ方」を考えるっていうやつですよね。必ずしも、すべての地方都市や地方のまちが発展する必要はない。っていうか、人がいないから現実的にしきれない。やるんだったらロボットを入れるか、外国人労働者を入れるか、といった選択肢を考えざるをえない、大きく複雑な話になると思うんです。だからできる範囲の話がどうしても戦術的になるのは、大きく複雑な話に行き着く過程において、まだわれわれが、どうにかできることをどうやるか、っていう話だと思うんです。その中で、まずは決めることがあるっていうことじゃないですかね。

    ● 石川 そういう大きな問題を解決するために、技術や武器をどんどん身に付けていくっていうことだと思うんですよね。プログラミングはできないので、一人ではWebつくれませんとか。そのときに誰とつながればいいかのか。そのときに初めて技術が必要になるのかなっていう気がします。

    ● 山田 Airbnbホストとして言わせていただくと、僕の家は、決して東京の中で外国の人から知られているわけではないんですよね。山手線から見ると郊外で、ジブリ美術館は確かに人気ではあるんですけども、近くのね。でも、そんなにチケットが取りやすいわけでもないし、東京の中の田舎というか、そういうのが正直、海外からの印象だと思うんです。その中で、どうやって面白い人に来てもらうか、ということを考えるモチベーションとすごく似ているなっていう気がしていて。僕の住む町には僕が当たり前だと思っているけど、実は当たり前じゃないものが何かしら絶対にあるだろうと。それを見つけられるかどうかは個人にかかっているという姿勢で取り組むというか。まちをがらっと変えようっていう大きなアクションじゃなくて、個人個人が、海外の人と1対1でつながるかたちをとっていくと、そこからどんどん広がっていくものは必ずあるし、僕は今、それを実感しているところです。懇親会のときとかに実例とか、どういうことがあったかみたいな話とかもできればと思います。

    ● 石川 はい。ちょっと長くなりそうなので、この話は、次の懇親会も含めて話せればと思っています。
     4日間、本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。参加者の皆さまにはですね、結構、ハードルというか、難しいことをお願いしていたなと思っています。どんどん参加者の人たちの顔が老け込んでいくと言うのでしょうか、疲労がたまっていく感じを横で見ていて、僕も自分で設計しておいて、なかなかだったなと思いながら、これは必要なものなんだと思い込みつつ。
    やはり何か持って帰って、おそらく、参加する前と、今では、やっぱり前とあとでは、何か違うもの、言語化できるものもあるとは思いますし、さっき言ったように、生き延びるためのデザインじゃないですけど、自分が何ができるのか、自分一人でできること、もしくは、できなかったら、ほかとつなげてやれることを少しでも拡張できたんじゃないかなと思っています。
     なので、これは終わりではなくて、ここからいろいろと、今回、発表された話も広げていきたいと思っていますし、YCAMとしても動けるものは動いていきたいと思っていますので、引き続き皆さん、頑張っていきましょうということで、よろしいですかね。

    ● 講師 いいとも!

    ● 石川 4日間、ありがとうございました。お疲れさまでした!

    (終了)

    もっと見る

    商店街ディスカッション

    1月13日では商店街や市役所の人達に向けたRADLOCAL 2の報告会が、山口市中心商店街にて開催されました。会期中の講師たちによるレクチャー、リサーチ手法、プレゼンテーションの様子が紹介され、また会期中でも用いられたアイディアを膨らませるセンシングカードを使っての「センシング大喜利」が開催されました。(撮影:StudioECHO)

    影山氏レポート

    RADLOCAL 2全体の総評として講師:影山 裕樹氏によるレポートを公開いたします。

    メディアの先入観を外す

    ローカルで生まれるメディアを、情報という観点からテクノロジーと結びつけ、ビッグデータの活用の仕方や、MESHなどIoTのツールを用いて考えるという、radlocal 2のプログラムは非常に斬新だったように思う。
    「ローカルメディア」という言葉を聞くと、どことなく古き良きタウン誌の発行者がせっせと一軒一軒配布に周り、それを毎号楽しみにしている商店主が、気難しそうな顔をしてメガネの端を指で上げる光景が眼に浮かぶ。ローカルメディアは、主に紙メディアとして発行されるものとしてイメージされることが多く、懐古趣味的な傾向に耽溺していて、ある種の文学好きクラスタ、良質なライフスタイル誌好きクラスタを形成し、小さく縮こまっているところがある。
    紙メディアの制作は、DTPの登場によって非常に安価に、手軽になった。誰でも作り手になれる、ある種のテクノロジーの民主化が起こったのがここ20年弱の大きな変化だろう。任天堂の伝説的な開発者・横井軍平は、安価で手軽になったテクノロジーを横にスライドし、別の商品を生み出すという意味の「枯れた技術の水平思考」という言葉を遺した。いわば、出版メディアのテクノロジーは枯れた技術であって、それらの技術を“遊ぶ”ことで、今までになかったメディアが生み出せるはずなのに、「紙メディアとはこうあるべき」という固定観念に縛られた人が未だに多いのが現状だ。
    そういう意味で、YCAMのプログラムは、紙メディアにまとわりつく趣味判断の重力をひきはがす引力を持っていたように思う。レクチャーでも僕は「紙やウェブといった既存のメディアの先入観を取り払ってほしい」と言ったし、短い期間の間で参加者から優れたプランがいくつも出てきたのは僥倖だった。プランを練り上げる段階で、温泉の泉源が余っているという地域課題を有効活用するメディアに昇華した「かべぽ」などは秀逸なプランだった。そのプロセス(リサーチ、ヒアリング)と、想定するユーザーを可能な限り広げる(どんな世代でも寒い時はあったかい壁に寄り添いたい)企画の仕方は、出版・編集に携わる者にも近しい発想の仕方だ。

    間に立つ技術とは

    つまり、読者(消費者、生活者......)と著者(発信者、企画者)との間に入って、両者が出会う面を可能な限り広く取ること。とはいえ、それは「誰でも参加可能」とか、「対象年齢無し」というぼんやりとした面の取り方とは違う。外山滋比古は『新エディターシップ』(みすず書房)のなかで、万葉集を引き合いに出しながら、間に立つ技術=エディターシップとは何かをこう語る。

    「『万葉集』はおそらく世界最古、最大のアンソロジーであろう。編纂大歌集であるから当然、編者がいた。いまはっきりしているのは大伴家持であるが、数多くの編者が、時代を異にして参画したものと想像される。(中略)貴人が中心でありながら、遊女、乞食の作品を収めているのは編纂者の見識であり、二次的制作としての編集が確立していたことをうかがわせる」(p.19)

    こうした間に立つ技術は、マスメディアの世界では専門家集団と大衆(庶民)をつなぐ役割を担っていた。では、大衆とは何か。それは漠然とした無知蒙昧な集団ではなく、ある時代的な常識に引き寄せられた“傾向性”を備えた集団として想定されてなくてはいけない。そして、その傾向性を脱する大きな力を発生させることで、大衆を別の方向に“動員”することができる。しかし、人々の関心を捉え欲望をある方向に動員する際に、僕らは一体どこに立っているか、その批評的な座標を自ら指し示すことが重要だ。批評的視座のない動員は、単なるポピュリズムである。
    では、僕たちがそれぞれ立つ場所をどうやって発見すればいいのだろうか。まずは身近な家族や地縁、学校 や会社などの組織が暗黙のうちに了承しあっている幻想(傾向)に、いかに縛られているかを自覚する必要があるだろう。そして、そこから外に出る。つまり、異なる組織やコミュニティ、あるいは大衆、世界との間に立って、自らが根ざす場所を相対化し、その重力から自由になるのだ。
    それはある意味、映画『アポロ13』の中で、アポロ13号が月の重力を利用してスイングバイを行い、地球に帰るために加速した様子に近いかもしれない。間に立つというのは、二つの天体の間に漂うことではなく、 二つの天体の重力を利用することである。すでにあるさまざまなコミュニティ、業界、組織、地縁は重力を持っている。その重力に落ち込んでいくのではなく、その重力を利用し、新しい推進力を生み出すのがメディアの技術なのだと思う。

    なぜいま“ローカル”なのか

    そういう意味で、地域は一つの天体のようなものだ。ローカルの可能性は、ブラックホールのように人と情報を集め続ける都市の重力から自由になって、それと比肩する強い推進力を地域に発生させることにある。例えば、廃墟になりかけている郊外のショッピングモールで、駅前商店街でたむろするマイルド・ヤンキーがハマっている怪しい出会い系アプリだって立派なメディアだ、と考えてもいい。地域の情報発信は、いつも観光客が好む地域資源に頼ってばかりいる。マスメディアや東京発信のライフスタイル誌で取り上げられそう、という視点に縛られている。だから、うちの地域は台風が通過しないとニュースにならない、と言う。でも、じっくり探せば山口の湯田温泉の名物=女将劇場のように、観光ガイドブックに載らない地域資源を発見することはできる。今回はワークショップの時間も限られていたから、山口らしい地域資源を掘り起こすのは難しかったけれど、逆に言えば、「何もない」地方でも、発想の仕方で、人や関心を集め、異なるコミュニティをつなげるメディアはいくらでも生み出せると思う。それは、radlocal 2で導入されたセンジングツールのように、旧来のメディアの固定観念を外す装置を投げ入れることからはじまる。