梅田宏明 — 映像やサウンドまでを自らデザインする振付家、身体をもったインスタレーション — 「ビジュアル・パフォーマンス」

梅田宏明は、振付、ダンスにとどまらず、舞台の映像やサウンドも自ら手掛けるアーティストです。観客が受ける視覚的なインパクトへの興味からデザインされた刺激的な光量や色彩を放つ空間、さらに自らの即興的なダンスとシンクロした舞台は、欧米を中心に注目を集めています。近年には、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2010」での公演のほか、国際的メディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ」(デジタルミュージック&サウンドアート部門)に入賞するなど、国内外、そしてダンス以外の多彩な領域での評価も高まっています。

左:「Accumulated Layout」(2007) photo: Shin Yamagata
右上:「Adapting for Distortion」(2008) photo: Alex
右下:「Haptic」(2008) photo: Shin Yamagata

光・音とともに等価におかれる身体

舞台の基本要素となる照明や音響。梅田の作品では、それらを、ダンスを見せるための従属的なものとして捉えるのでなく、むしろ、身体を舞台上の要素の一つとして捉え、光・音・身体はすべて等価である、という姿勢に貫かれています。自身の「情動」から、色や線といった抽象的なイメージを描き起こし、光・音・身体の関係性を舞台上に組み上げていく作品は、インスタレーションに例えられることもあります。

観客の視覚をもコントロールする

映像やネット環境に囲まれ、様々なレベルの「リアリティ」が交錯した現在における、ダンス表現とは —。ダンスが、人間の視覚を偏重した表現とされることに異議を申し立てるかのように、梅田は、あえて、さらなる視覚の過剰さを表明し、自らの作品を「ビジュアル・パフォーマンス」と定義します。それは、観客が受容するイメージを、舞台表現における身体の表象とは別に、視覚情報としてコントロールする態度であり、これまでのダンス表現にはない野心的な挑戦といえます。光の受容器としての身体を分析し、光量や色彩を構成した作品に、観客は知覚の臨界を経験します。

メディア技術を柔軟に使いこなすポータビリティ

世界の代表的フェスティバルや劇場で次々と作品を上演している梅田。パソコンと身一つというそのコンパクトなツアースタイルは、一般的なメディア技術の向上や普及がなされた現在ならではのものといえます。振付やダンスにくわえ、映像や音響のアイデアを具現化する方法を追い求める梅田のマルチな姿からは、「ポータビリティ」に優れたパフォーマンスの現在形が見えてきます。

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