今回の作品は、造形アートとサウンドアートの発想を独自な構造体として連結させる、ニコライの本領が発揮された大作となるものです。ニコライはこのインスタレーションを「光と音と建築空間の共生体」と呼んでいます。物理的な結晶組織を分析して作り出された約幅14m、高さ4mの巨大な多面体が、映像プロジェクションを透過する特殊なハニカム構造の新素材で覆われ、その表面には多数の小さな特殊スピーカーが取り付けられています。ニコライ独自のサインウェーブやパルス音を多用したアブストラクトな電子サウンドのコンポジションに、粒子的な映像 (6台の白色レーザープロジェクション / ドイツのJENOPTIK社の特別な協賛によって実現しています) が同期して変化し、観客は、内 / 外のさまざまな距離やアングルから、自由にこのインスタレーションを体験することができます。
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割り出されたシステムを独特な形で用いています。1つの正方形の内部を、それぞれが全て異なった大きさの正方形で分割すると、21のパートの正方形の組み合わせで完全形を作り出すことができます。ガラスをブロックとして構成した正方形のインスタレーション作品「perfect square」(2004) で視覚造形的に用いたこの原理を、「シンクロン」では、辺長が異なる21の正方形を中心から螺旋状に順次展開して横1線に並べ直し、それを時間軸に変えて音のダイアグラムとしています。その時間軸上に電子音響的視点からサイン波、パルス音などの構成要素を複雑にコンポジションしているのです。コンポジションのパートごとに、音に同期して変動する粒子的な映像が細かく割り当てられ、21+21=42分周期でループします。
「カールステン・ニコライ┃シンクロン」はこのように、部分と全体を緻密に流通させながら、映像・サウンド・建築空間の各要素を、独自の発想とコンピュータによる情報技術によって融合させた表現の結晶体ともいえるでしょう。それは、これからの新しいジャンルのアートを創造する挑戦といえるかもしれません。
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内部に入ることが可能な結晶形であるこのオブジェクトは、半透明な素材で覆われ、六角形から構成される形態をしている。建築としての外皮は、光とサウンド要素を共生するという本質的なインターフェイス機能を担っている。外皮と内皮の表層は、音響的駆体、振動する空間、映像プロジェクションされる表面という機能を同時に共存させる空間を形づくる。
サウンドは、テストシグナルを想わせるサイン波のサウンドのようにシンプルな音響的粒子から成っている。音響的なシグナルは、結晶形体の特殊な音響を通じて生み出され融合する。視覚的なオブジェクトは、もちろん彫刻的な対象としても知覚される。それは知覚可能な秩序化された内部空間を意図的に作り出すためのもので、そこでは視覚的にも音響的にもニュートラルな状態が保たれる。
サウンドとそれと同期するレーザープロジェクションの映像によって、空間の位相がその都度再定義されていく。「シンクロン」は光、サウンド、建築体の共生を喚起し、それらを時間、周波数、空間といった側面に連結させようとするこころみなのである。
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