多様な人々をとりこむ

大いなる実験

毛利 衛

宇宙への発射前の一瞬一瞬ほど、一直線に流れていく時間というものの非情さと重みを感じることはありません。

前日から始まっているカウントダウン。オレンジ色の気密服に身を包み、発射台へ移動する当日。そして発射の2時間半前、スペースシャトルの座席シートに身体をくくりつけ、足を上にした状態で打ち上げを待つ。どんな小さな遅れも許されない。1秒ごとに、確実に「その時」が近づいてくるのです。

一方、宇宙から地球を見ていると、地上で感じていた時間の感覚が完全に忘れ去られます。地球というスケールのなかでのみ刻まれている時間を離れ、宇宙誕生から連綿と流れる悠久の時のなかに身を置く。するとふと、「時間」というのは一様に存在するものではなく、科学や文化を形成するそれぞれの分野が、それぞれのスケールで多様な時を刻んでいるということが了解されるのです。

この「時間旅行」展は、まさにその多様な時間を体験していただこうという企画展です。時間をテーマにした展覧会を、という案を初めに聞いた時は即座に、これは相当の難題をかかえたな、と思ったものです。有史以来、すでに多くの科学者や哲学者が時間について考え、答えを残しています。その幾多の賢人の業績を前に、それらを超える新しい切り口で、現代における「時間」を捉え直そうというのです。これほどにオリジナリティが問われることはありません。しかし、科学者やデザイナー、展示の専門家、そしてわれわれスタッフなど、この企画展に参加する大勢のメンバーが一堂に会した日、彼らの議論に交わりながら私のなかにわき起こったのは、「これはひとつの実験なんだ」という思いでした。従来の枠組みを取り払い、多様な分野の、多様な人々の活動をとりこんでつくりあげる企画展。結果がどうであれ、この大いなる実験を遂行することの意義の大きさを買いたい、と思いました。「新しい発想で新しいものを生み出すには、失敗をおそれず実験のなかに身を投じなければならない」。これが私の考えです。

さて、私たちの実験の結果はどうだったのでしょうか。何か新しい発見が生み出されたでしょうか。その答えは訪れてくださる皆さまに預けましょう。どうぞここで「旅」を楽しみながら、旅の同行者と、または旅先で知り合った人々と語り合い、旅を続けていただければと思います。そしてそこで生まれた対話が、また新たな旅の始まりとなることを願っています。

(もうり まもる/日本科学未来館長、宇宙飛行士)

 

▲このページの先頭へ