細胞の進化

21億年の時間旅行

藤島政博

ミトコンドリアや葉緑体を生み出し、真核細胞の進化に寄与してきた「細胞内共生」は、現在も繰り返しておこなわれ、細胞に新たな構造と機能を与えて多様な環境への適応能力獲得の原動力となっている。

細胞内共生とは
大型の細胞の中に小型の細胞が飲み込まれ、安定して増殖を続けて宿主細胞内に維持される現象を細胞内共生といいます。約21億年前、現在の古細菌の祖先に細胞内共生した好気性細菌(現在の真正細菌)がミトコンドリアになったと考えられています。このようにしてできた細胞(真核細胞)の中には光合成細菌を細胞内共生させることに成功したものが現れ、これによって葉緑体を持つ植物細胞が誕生しました。ヒトやゾウリムシ等の細胞が古細菌と真正細菌の両方の特徴を持つのは、約21億年前の真核細胞の誕生の記憶を今でも維持しているからです。細胞の進化について考えてみませんか。


ゾウリムシ
核内の細長い構造は核内共生細菌ホロスポラ

細胞内共生で新たな環境適応能力を獲得し生息域を拡大する
現在でも、細胞内共生はくり返されており、細胞は進化しています。ミドリムシはトリパノソーマの祖先に緑藻が細胞内共生してできた細胞です。毎年100万人以上の死者を出す原生動物のマラリアは、昔は葉緑体を持つ緑色の細胞だったことが最近明らかになりました。単細胞動物のユープロテスは、細胞内共生細菌を除去すると生存できません。ミドリゾウリムシはクロレラを細胞内共生させて光合成能力を獲得しようとしています(写真参照)。さらには、天敵の肉食原生動物ディディニウムから攻撃されなくなります。一方、ホロスポラという細菌を細胞内共生させたゾウリムシは、さまざまなストレスに対する抵抗性を獲得します(写真参照)。たとえば、普通のゾウリムシでは短時間で死滅する高温、低温、高塩濃度でも、ホロスポラを細胞内共生させたゾウリムシは生存できるようになります。淡水に生息するゾウリムシが、汽水域に生息域を拡大しつつあります。いずれは、太平洋を渡るゾウリムシが出現すると思います。


ミドリゾウリムシ
細胞質の緑色の顆粒は細胞内共生しているクロレラ

細胞内共生の成立のしくみ
細胞内共生は、特定の生物種の間で行われています。これらの細胞は、長い進化の時間に、細胞内共生を成立させる必要条件を獲得したと考えられます。したがって、その条件が何かを解明できれば、任意の細胞の組み合わせで細胞内共生の誘導が可能になり、多様な能力を持つ有用細胞を作れることが期待されます。これまでの細胞内共生の研究は、地球環境の変化に適応して進化した真核細胞の起源の解明に関するものが主でしたが、これからは、進化の時間を超越して、実験室で短時間で細胞内共生を成立させるための研究が主流になるのではないかと思います。

私は、ゾウリムシとホロスポラおよびゾウリムシとクロレラとの細胞内共生の成立条件を明らかにして細胞内共生の人為的誘導技術の開発を夢見て研究をおこなっています。

(ふじしま まさひろ/ 山口大学時間学研究所 サイエンティフィック・アドバイザー)

 

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