CONCEPT | コンセプト

アートの表現として「環境」をとらえる

本展では、<生成する><浸透する><反射する>といった相互の領域をつなぐものとして「環境」を捉えています。ランドアートやアースアートなど、環境をアートの場や要素としたムーブメントはこれまでに数多くありますが、本展では、メディアアートの本質的な創造性や探索性の中に新たな「環境」を見出していきます。それは、情報技術によって「環境」が多領域を結ぶものとして開かれ、相互環境性=「環境圏」を生み出す試みです。物質的に加えられた外容でなく「環境」が空間の変容として表現されるコンセプトは、現在において強く静かな主張を持つことになるでしょう。

大阪万博から40年―。E.A.T.の活動に、今日的な視点を読み解く

世界的に話題を呼んだ1970年の大阪万博では、ペプシ館で実現されたアメリカの実験グループ、E.A.T.(Experiments in Art and Technology)の活動が注目を集めました。アーティストと科学者との共同作業、参加アーティストの斬新な構想は、環境とアートの関係性を探求する先駆的で驚くべき成果を実現しています。本展では、それから40年を迎える現在までを、物質的な生産性に基づく進歩的科学観から、不可視の情報資本主義へ移行する大きな転換期として捉え、E.A.T.の思想や成果を批評的に検証します。アートと科学による先進的な考え方や取り組みを、現代における情報社会学、環境創造の視点を含めて読み解くことで、今日的なリアリティや新しい環境要素を開示します。

中谷芙二子「霧の彫刻 #47773 Pavilion」(大阪万国博覧会、ペプシ館、1970) photo:©田沼武能

人間の知覚やネットワーク技術を通じ、「環境圏」を提案する

本展は、大阪万博のペプシ館で最初に発表された中谷芙二子の「霧の彫刻」とともに、そこでインタラクティブな音を担当したディヴィッド・チュードア(故人)による思想と表現に着目し、構想されています。YCAMの館内外のメイン会場には、様々な様態を見せる「霧の彫刻」を展示します。さらに、チュードアが開拓した、環境の反射によるサウンドスケープの発想を取り込んだ新作インスタレーションも同時公開します。それは、中谷と万博以降に育った世代である高谷史郎をはじめとするアーティスト、そしてYCAMのスタッフによるコラボレーティブな新しい環境創造への挑戦といえるでしょう。情報技術を用いて、自然の変化と同時に人間の知覚の変化を多様に取り込ん作品は、クリティカルな全く新しい「情報環境圏」を感覚化していきます。
「Island Eye Island Ear」(スウェーデン、クナーベルシェア島、1974) photo:Fujiko Nakaya