アートとしての環境圏
霧、光、サウンドがもたらす、環境創造への新たな展望
芸術表現と情報技術の融合による新たな環境創造を提案する本展では、「環境」を、エコロジーの視点だけでなく、自然環境、社会環境、精神環境、そして今日的な情報環境とが、相互にインターフェースする視点から捉えます。ランドアートやアースアートなど、環境をアートの背景や要素としたムーブメントはこれまでに数多くありますが、本展では、メディアアートの本質的な創造性や探索性である、環境内存在としてのインタラクティビティの中に新たな位相を見出しています。それは、〈生成する〉〈浸透する〉〈反射する〉といった相互の領域をつなぐ相互環境性=「環境圏」を展望する新しい発想につながります。
本展では、YCAM 館内外の公共空間3ヶ所を会場とし、1970 年の大阪万博におけるペプシ館で初めて構想・発表されて以後、世界の様々な場所で公開され、注目を集めてきた中谷芙二子の「霧の彫刻」と、高谷史郎による光とサウンド表現がコラボレーションする大規模な新作インスタレーションを展示しています。滞在制作によるYCAMオリジナル作品(委嘱作品)となるこれらの作品は、人工霧、太陽光、サウンドが組み合わさり、独自の装置と気象の変化への対応が、多様な空間をつくり出すインスタレーションです。中庭や公園に広がる霧、ホワイエを満たすサウンドスケープが、情報技術を駆使したシステムによって次々に変化を生み出し、見えるものと見えないもの、さらに、自然環境と人工環境の対話を促します。
また、本展では、その発想の一端となったアメリカの実験グループ、E.A.T.(Experiments in Art and Technology)の1970年大阪万博における先見的なプロジェクトの紹介も交え、アートによる創造的な探索のあり方についても考えていきます。アーティストと科学者との新しい形の共同作業を提案・実践したE.A.T.の構想は、アートと科学の協調、そして環境とアートの連動的関係性を探求する意味で、先駆的な驚くべき研究と成果を成し遂げています。E.A.T. が40年前にもたらした「環境としてのアート」という提言は、当時としては非常に斬新であり、現在の視点からも十分に再評価可能な視点を持っています。本展では、それら歴史的経緯を踏まえ、現代における情報技術の成果を反映させながら、これからの新しい環境創造とアートのリアリティを創出します。
タイトル「CLOUD FOREST」について
本展のタイトル「CLOUD FOREST」とは、亜熱帯地域において、常に上方が霧に包まれている森林エリア「雲霧林」を示す言葉です。そこは、安定した人間社会と完全な野生の中間に位置する特異なエリアであり、相互浸透が活性化している場所と捉えることもできます。ここに、本展が提案する「環境圏」、すなわち情報技術によって多領域を結ぶものとして開かれる「環境」のあり方を見出すことができます。
また、このタイトルは、ディヴィッド・チュードアによるサウンドインスタレーション/パフォーマンス作品「RAINFOREST」を踏まえています。60 年代に創案・実現されたこのプロジェクトは、空間に吊るされた様々なオブジェを共振させ、電子回路によって空間全体のサウンドを脱中心的に作り出すインスタレーションです。タイトルが示す通り、熱帯雨林(=RAINFOREST)のように、音が粒子となって空間を満たし、いつ終わるともいえない持続の空間を生み出す発想は、オブジェクティブではない、レゾナンス=環境への視点をもたらすといえます。本展は、この作品にある先見性とともに、大阪万博ペプシ館、70 年代に中谷芙二子がジャクリーン・マチス・モニエらと構想したプロジェクト「Island Eye Island Ear」(=島・目・島・耳)の先進性も踏まえて、チュードアにオマージュを捧げたプロジェクトです。