監視社会と身体の関係から生まれる新たな次元の欲望。
知覚の未来を想起する。
80年代から「情報社会と身体」をテーマに活動をおこない、90年代以降には、コンピューティングを取り込みながら、テクノロジーと芸術表現を批評的に検証し、時代を挑発する存在として、国内外で多くの注目を集めてきたアーティスト、三上晴子。本展では、「監視社会と身体」をテーマに、新たな知覚と社会を想起する三上晴子の大規模な新作とともに、同テーマに脳科学と複雑系を導入した池上高志による新作インスタレーション、さらに三上晴子+市川創太による「gravicells—重力と抵抗」改訂新バージョンを同時公開します。
知覚としての身体から、情報としての個人へ。
三上晴子は、80年代より「情報社会と身体」をテーマに、ジャンルを問わない芸術活動をおこない、情報化社会を予感させる表現によって、注目を集めます。さらに、92年からは、ニューヨークにおいて、コンピュータサイエンスに取り組んで以降、生態や免疫などのバイオインフォマティクスにも領域を広げ、現代社会における情報環境と人間の知覚をめぐる問いを、全く独自のコンセプトとリサーチによって、インスタレーションの形で発表してきました。三上の作品は、海外でも高く評価され、近年、北欧・ドイツ・オーストリア・ロシア・フランスなどで、大規模な空間を使った展示がおこなわれています。今回のYCAMでの新作発表は、日本での久々の本格的な展覧会となります。
本展では、中心的テーマとして、9.11の事件以降、社会的に大きな影響を与える公共圏における監視技術の問題をふまえ、「監視社会と身体」を設定しています。監視技術があらゆる面で劇的に発展し、公共空間にもネット空間にもユビキタスな広がりを見せる中で、管理される不自由性と自由な発展性という両義的な要素が、相反して顕在化しています。今回、三上は、YCAMとの共同制作によって、監視技術とネットワーク社会の中に生み出される、新たな身体性と欲望の所在について探求する作品を制作しました。これは、技術やロボティクスの応用、インタラクティブインスタレーションの形式としても非常に斬新なアプローチとなっています。
また、本展では、そのテーマにもとづく新たなこころみとして、「Desire of Codes|欲望のコード」展を拡張する形で、複雑系科学の研究者、池上高志による新作インスタレーションを同時に発表します。池上は、脳科学による「主観的時間の自己組織化」という視点から発想された、心の時間発展の理論に言及した新作インタラクティブインスタレーションを制作しました。さらに、04年にYCAMで発表後、世界8カ国12ヵ所を巡回した、三上晴子+市川創太による「gravicells-重力と抵抗」改訂新バージョンを同時公開します。現在の情報技術と多様な次元のインタラクションが生み出す時間/空間の変容を、体験的に鑑賞できる、新作+関連展示2作品による総合的企画展です。