多視点+多眼のシステムが生み出す欲望
観客自身を追尾し、観客が監視と表現のターゲットになるインスタレーション
YCAMの、劇場スペースとして使用しているスタジオAを全面フラットな状態で使用し3つの構成で展開する大規模なインタラクティブインスタレーション。
巨大な壁面に広がるのは、昆虫の触毛を思わせる大量のストラクチャー【1】、天井からは、カメラとプロジェクターが搭載された6基のサーチアームが吊られています【2】。各装置は、昆虫がうごめくように、観客の位置や動きをサーチし、それに向かって動き出し、観客を監視しています。また、会場の奥には、昆虫の複眼のような巨大な円形スクリーンが位置します【3】。それぞれのカメラの映像データは、世界各地の公共空間にある監視カメラの映像などとともに、独自のデータベースを構築し、過去と現在、会場と世界各地の映像を、複雑に交錯させながら、スクリーンへと投影されます。時間や空間を断片的に組み変えながら、新たな現実を描き出す複眼の表現は、観客自身を監視と表現の対象として、そこにある私たちの新しい身体性と欲望の所在を問いかけます。
壁面を埋め尽くす90個のストラクチャー。観客が作品のエリアに入ると、この大量の装置は、先端を明滅させながら、昆虫の触毛のように観客の方向に一斉に動き出します。個々のユニットから出される「カシャ」という駆動音により、全体として生物体がざわめくような空間を作り出します。また、その一部には、人間の知覚を越える高精度のカメラが内蔵されており、常に観客を撮影しています。ストラクチャーの動きと、撮影された映像は、本作のデータベース(欲望のコード)へと取り込まれ、対面に位置する【3】に反映されます。
天井から吊り下がる昆虫の触角のような6基のサーチアーム。先端にカメラとプロジェクターが装着されたアームは、疾走するように常に観客の動きに追随し、撮影と投影を続けます。作品のエリアに入る観客は、その姿をサーチアームに捉えられ、同時に、6基のアームの多視点による自らの映像に対峙することとなります。考える隙間も否定するかのように速度を増しながら動くアームにより、「現在」は「ヴォイド/空虚」の繰り返しであるということが認識されていきます。アームの動作は、本作のデータベース(欲望のコード)へと取り込まれ、音響空間として反映される仕組みになっています。
昆虫の複眼のように、61個の六角形(個眼)が集合化した巨大なスクリーン。本作のデータベース(欲望のコード)に集積する【1】の映像は、世界中の公共空間に点在する監視カメラのデータとともに、スクリーンの個眼へと映し出されます。これらの個眼は、互いに連携しながら、時間軸、空間軸、ネット軸を横断し、データベースを通してリアルタイムに巡視をおこない、全ての要素はこの個眼の思考により分断されることになります。例えば、観客の皮膚、眼、髪、鞄などのリアルタイムの会場の映像、そして5秒前あるいは5時間前、5日前の過去の映像、また世界中の公共空間(飛行場、公園、廊下、雑踏など)の監視カメラの映像は、常に入れ替わりながら混在します。その映像の変容やタイミングのずれは、まるで分断された夢や、脳内の記憶を見ているかのようです。その様相は、情報化/監視社会によって収集されるデータから、情報として自動的に生成される欲望の存在を提示する装置といえます。
※音響空間
会場のいくつかのポイントに超指向性マイクが向けられ、会場のフィールド音を録音しています。話し声や物音、作品から発生される機械音は、時間軸を組み替えながら混在し、音響空間を作り出します。3作品(【1】【2】【3】)すべての要素の振る舞いや状況をトリガーとしており、現時点までに蓄積された過去の音声を呼び戻し、それを素材として、常に新たな音響空間が生まれます。