カメラについて カメラオブスクラの歴史と構造&プロジェクトで使用したカメラ

カメラオブスクラの歴史

オブスクラ画像

「カメラオブスクラ」という言葉は、ラテン語の「カメラ(=部屋)」と「オブスクラ(=暗い)」という言葉を組み合わせたものです。暗い部屋にあいた小さな穴から漏れる光が部屋の外の風景像を映し出します。現代のカメラにもつながるこの単純な光の直進性という光学原理は、アリストテレスの記述などから、紀元前には知られていたようです。

カメラオブスクラは、ヨーロッパを中心として十三世紀から十六世紀にかけて、ピンホール(針穴)を開けた単純な木箱からレンズや鏡面を組み合わたものなど盛んに研究が進められ、科学や芸術といった専門家の観察用機器として広く用いられていました。19世紀になると遊園地や行楽地のような場所で娯楽として広く大衆に楽しまれるようになりました。

写真プリントという技術の無かった時代、立体的な外の空間を、紙やテーブルといった平面に映し出して眺める事に、人々の大きな驚きや、科学研究のヒントが詰まっていたことが想像できます。

写真として紙やフィルムに撮影できるようになったのは、化学の研究が進み感光薬品が発明される十九世紀以降の事で、それまでは紙に写した像を手描きでなぞって絵を描いていましたが、それでも医学や自然科学、芸術等の多くの分野で役立てられました。

針穴で像が見える仕組み

仕組み画像

例えば上の図のように、屋外に立っている人を見るとき、太陽から発された光は、人や樹に到達した後、いろいろな方向に乱反射します。針穴を用意しなかった場合は、あらゆる方向から届く光の全てがいっぺんに見えてしまっている状態なので、何かの図像を認識する事はできません。

しかし、針穴を通過した光は光の直進性という性質によって、小さな穴を通ってから、まっすぐ壁へ直進します。針穴がある事によって、針穴以外からやってくる光をシャットアウトし、針穴を通過した光のみが暗箱の壁に到着するときに、外の景色が映し出されることになります。

これが、針穴で像を映し出す仕組みです。


obscura machina(オブスクラマキナ)2004について

obscura machina 2004は、「カメラオブスクラプロジェクト」の活動を象徴する作品として、佐藤氏の監修によって設計・設置されました。

YCAMのホワイエ2Fのスペースに設置された、幅5.4m×奥行3.6m×高2.4mの巨大な部屋は、レンズを備え写真機と同じ構造をしていますが、複数のレンズを持つことが特徴的です。中央公園側とホワイエ側にそれぞれ4つずつ備えたレンズから、黒い壁面の室内に外光を取り込んでいます。公園側の横一列に並んだレンズから入った光は、壁面から90センチ内側の天井から吊るされている横幅3mの巨大スクリーンに像を結び、中央公園と県道を走る自動車、建物といった屋外の風景を上下左右の倒立した4つの連続した像として映し出しています。逆にホワイエ側は、上下2段2列に並んだ4つのレンズから入ってくる屋内の景色を、30cm角の小型スクリーンを手に持った観客が、空間上に結ばれた焦点を探りながら鑑賞することができます。

obscura - machina 2004は、これまでの光の芸術およびそのルーツを、単純化された構造で描き出す、抽象化された存在=仕掛けだと言えるでしょう。

オブスクラマキナ画像

かぶるカメラ(段ボールカメラ)について

2004年7月21日から5日間の日程で行われた「かぶるカメラを作ろう」ワークショップで小学生が作ったカメラは、段ボールで作られたカメラオブスクラです。段ボールとトレーシングペーパーと虫眼鏡で作られた単純な仕掛けですが、倒立した画像がとても美しく見えます。作ってみたい方はこちらのページのワークシートで作り方マニュアルがごらんになれます。ワークショップではこのカメラをかぶったまま文字を読んだりサッカーをしたりといった遊びを発明する子供もいました。

かぶるカメラ画像

缶カメラについて

カメラや写真現像の仕組みについて、実際に体験して学びたい!カメラについて素人のメンバーも多かったルチーダフレンズのメンバーたちが、自主的な研究として空き缶を使ってピンホールカメラを製作し、実際に撮影&現像までを体験してみました。ピンホールカメラは、カメラや現像プリントの仕組みを学ぶには最も手軽な方法。

家にある空き缶を持ち寄り製作開始。針穴の部分は薄いアルミを利用して、針で0.3mmの穴をあけました。内側に黒い塗料をスプレーして、光の入り込む部分をテープでとめたら完成。この中にモノクロの印画紙を仕込みます。メンバーはその後、このカメラを使って撮影と現像研修も行いました。F値露光時間、針穴の大きさなど、体験してみないと分からないことだらけでしたが、メーリングリストで佐藤さんに聞いたり、インターネットの情報を検索して調べたりしながら、実際にネガポジ反転、プリントまでを行いました。

缶カメラ画像

ワンダリングカメラについて

ワンダリングカメラとは、佐藤氏および東京芸術大学先端芸術表現科のワンダリングカメラプロジェクトチームによる、アートプロジェクト【漂白するカメラ(家)プロジェクト】にて制作された、自動車で牽引可能なアルミ製のカメラオブスクラのことです。このプロジェクトは2000年からスタートし、全国へ(または韓国までも)移動し、現地の人々を巻き込みながら発展していくプロジェクトです。

山口でも、10月に行われる「アートふる山口」というアートイベントのために、佐藤氏とプロジェクトの学生メンバーがこのカメラを携えて山口までやってきてくれました。「アートふる」に訪れた観客の方々にカメラの中に入ってもらい、天井に取り付けられたレンズから室内に映し出される美しい景色を楽しんでもらいました。この活動の意図は、カメラの内部に入り込んで、ルチーダメンバーとアートふるの観客が一緒になって、見慣れた山口のまちを再発見することでした。また山口県内数箇所で、このカメラによる写真撮影も行い、2005年2月の展覧会「針穴図像 -光の間-」にて作品の展示を行いました。

ワンダリングカメラ画像

ワンダリングカメラ画像

展覧会で使われたカメラについて

2005年2月11日から3月13日まで、山口情報芸術センターにて開催された展覧会「pin-holes project in Yamaguchi 針穴図像 -光の間-」では、光の文化が溢れる山口の光景を撮影するため、アーティスト佐藤時啓さんとルチーダフレンズがオリジナルピンホールカメラを制作しました。

「山口カメラ」と呼ばれる24方向に針穴をもつ赤いカメラは、上段・中段・下段それぞれ、8方向に45度ずつの角度で4×5フィルムがセットできるピンホールカメラが装着され、一箇所からその全周囲方向を撮影することができます。撮影後24枚のイメージを並べることによりパノラマ画像ができ上がります。

「タイラ」と名付けられた黒いカメラは、2箇所、ないしは3箇所から光を取り込み、一つの8×10フィルムに対して異なる重なり合ったイメージを生成できます。撮影時はこのカメラを90度、または180度ずつパンしながら、T字路や路地などのイメージをフィルムに焼き付けました。つまり一つのイメージで複数の方向を記録したことになります。

これらのカメラはピンホールに取り付けられた黒いゴムのフタを手で取り外すことによって、シャッターを切る(開ける)事ができます。実際の撮影では、露光秒数を声をそろえて数えながら複数人で同時にシャッターを切るという、通常の写真撮影では考えられないような貴重な体験ができました。

山口カメラ画像

山口カメラ画像

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