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ABOUT POLAR

前作 “polar [ポーラー] ” (2000) について

2000年にキヤノン・アートラボ第10回企画展*1として開催された“polar [ポーラー] ”は、1998年から2年間の歳月をかけて制作されたインタラクティブインスタレーションです。ニコライとペリハンはこの作品の発想の起点として、ポーランドの小説家スタニスワフ・レムのSF小説“Solaris”と、それを原作に旧ソビエトの映画監督アンドレイ・タルコフスキーによって映画化された“Solaris”を挙げています。ここでは、新発見の天体「ソラリス」を探査に赴く宇宙船の物語が描かれますが、ソラリスのニュートリノ系物質のオーシャン (海) は、人間にとっての新たなる何か (対象) ではなく、人間の欲望と深層心理を読み取り、反映/反射する存在として描かれており、結局、未知なるものの探査とは、人間自らの限界への探索そのものである、というパラドックスが提示されています。

“polar”では、作品 (オーシャン) は、最初は無垢の白紙のような存在であり、そこに訪れる体験者のインタラクションを通して初めて、情報化社会にインプットされた人間世界の知識を徐々に獲得し、学習・成長していくものとして捉えました。それは、情報によって構築され始めた、新たな地球という未知の惑星に対して、人間が今後どのような情報への想像力や、モードを創造できるのかといった問いを投げかけているといえるでしょう。さらに、原作において描かれる「反映されるものが幾何学的結晶体を持つ」という神秘的現象に注目し、情報ネットワークを対象とした不確定性原理や量子力学のようなものを感覚体験できる空間を創りだそうとしました。

体験者は2人1組となって、特殊な情報収集インターフェースを持ち、まず作品空間内のデータ [周囲の映像、音、温度、重力加速度] を収集していきます。収集が終わると、各自のデータの特性が分析され、自動的に7つのキーワード/概念が突如としてモニターに表示されます。そのカテゴリーは「結晶/結晶化」、「ダイアグラム」、「ステルス/ステルス性」、「マシン/マシニック」、「波/波形」、「対称性/対称化」、「スペクトル/幽霊/スペクトラム」です。この中から1つを選ぶ (関心を方向づける) ことにより、レムの“Solaris”をはじめ、各キーワードにデフォルトとしてインプットしたテキストを学習させた特殊な知的情報検索システム [エンジン、ディクショナリ、ナレッジベース] が稼働し、インターネット上のさまざまなサイトから、さらに関連づけられる新たなキーワードが個別の体型として収集され、データベースがそのつど組み替えられて行きます。それと同時に、インターネットの各サイトへ到達するまでの経路情報とともに、新たな知識の獲得や強度が波形のアタックとして表現され、体験者それぞれが収集したデータや概念による世界の体系の特徴に対し、光と音で、空間全体の表情が別の結晶体に変化するようなダイナミックな変動を起こし始めるという作品です。各参加者のインプットは加算化され、頭脳が成長するように毎回反応は変化していきます。

*1 キヤノン株式会社が1991年から2001年までおこなっていた斬新な文化支援プロジェクト。当時は、コンピューター画像やインタラクション技術の本格的利用やメンテナンスは高額なコストを伴うものであり、一般のアーティストには接触不可能なものであった。それを企業が補う文化支援目的のために設立された。主に、アーティストとキヤノンのエンジニアのコラボレーションをコーディネートし、メディアアートの新作制作を支援。毎年企画展を開催、国際的にも注目されていた。

参考写真:“polar [ポーラー] ” (キヤノン・アートラボ企画展、東京、2000)

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