カールステン・ニコライ | Carsten Nicolai
ビジュアルアーティスト、作曲家、ミュージシャン。1965年東ドイツ生まれ。現在、ベルリンとケムニッツを拠点に活動。ビジュアルアートと電子サウンドといった異なる領域の表現をハイブリッドツールとして用いる作品で知られる。その表現は、物理現象、生命現象、カオス現象などにもおよぶ。サウンドパフォーマンスでは、記号的なコードを視覚化し、ポストテクノ音響のみならず、現代美術やメディアアートでも国際的に高く評価されている。ミュージシャンとしては、notoおよびalva notoの名で、数々のアーティストとコラボレーションをおこなうほか、池田亮司とのユニットcyclo.としての活動でも知られる。2005年には、光と音と建築の共生体となるインスタレーション“syn chron”をYCAMにて発表。
マルコ・ペリハン | Marko Peljhan
コンセプチュアルアーティスト、メディアーティスト。1969年スロヴェニア生まれ。現在、カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授、同校芸術研究所の共同ディレクターを兼任。1995年には、アート&テクノロジーのオーガニゼーション“Zavod Projekt Atol”を設立。オープンソースおよび戦略的メディアを基盤とした技術開発のためのグローバルなネットワーク“PACT Systems”を開始。このほか、音楽レーベル“rx:tx”を主宰。1997年より、テレコミュニケーション、気象観測システムなどにフォーカスした極地移動ラボプロジェクト“Makrolab”を実施。ユーリ・ガガーリン宇宙飛行士トレーニング・センター (モスクワ) とMIR協会 (Microgravity Interdisciplinary Research) との共同プロジェクトのコーディネーターも務める。
“polarm [ポーラーエム] ” について
“polarm”は、放射線によって生み出される、構造化されたランドスケープの中で、基礎物理学的な相互関係を探索し、体験するという状況を作り出すものである。
2000年に2人で制作した“polar [ポーラー] ”が、知性のマトリクスとしてのネットワークの概念に関わるものであり、そこでは“Solaris”*1の海の認知がマトリクス化され、体験者がそれに対してインタラクションを持ちうるものであったとすれば、“polarm”のランドスケープでは、空間における人間の存在や影響といったもの自体が、問いかけられるものになる。われわれがめざしているのは、放射線の粒子の海に隠された、はるかに大きく無限にまで接近するような構造における、自律的な構築としてのアート作品である。
“polarm”では、アルファ線、ベータ線、ガンマ線といった放射線がまとめられた電磁的かつ可視的な放射場が、作品のダイナミックなトリガーとなっており、作品ランドスケープ内に置かれた観測器や装置 (ガイガーカウンター、クラウドチェンバー、高周波受信機、花崗岩放射線ジェネレーター) が観測する結果を、アルゴリズムにより聴覚化/視覚化している。それは、人工と宇宙の世界の双方におけるミクロかつマクロな自然を、知覚可能な非物質的プロセスとして捉え、一時的に可能な人間の知覚圏域にプロジェクションする。
われわれが体験者に問いかけているのは、知覚の臨界へと向かうことである。それは、世界という壮大なシステム内に形成された“polarm”というシステム (システム内システム) の内部において、不確定性原理と量子力学的関係性について向きあって考えることであり、またその限界を検証してみることである。それはまた、真の意味での観察を通じて、新しい意味生成と新しい関係性を創出することになる。
カールステン・ニコライ + マルコ・ペリハン
*1 ポーランドの小説家スタニスワフ・レムのSF小説“Solaris”と、それを原作に旧ソビエトの映画監督アンドレイ・タルコフスキーによって映画化された“Solaris”のことを指している。