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池田亮司 “supersymmetry” (2014年/YCAM委嘱作品)

本作は、近年の池田の量子論への傾倒と関心を大きく反映させたものであり、2014年2月から始まったスイス、ジュネーブにある世界最大の素粒子物理学の研究施設CERN(欧州原子核研究機構)での滞在と研究者、技術者との対話から得た着想を反映した2作品によって構成されています。これらは、現代物理学や素粒子物理学の実験と観測、さらに表象と数学的モデルの関係に対応するように、“supersymmetry [experiment](スタジオB)および “supersymmetry [experience](スタジオA)という1対のインスタレーションとして構成されています。

supersymmetry [experiment]
スタジオB

池田亮司 “supersymmetry [experiment]”
作品名の「experiment(実験)」が示すように、ここでは観測されデータ化される前の物理現象そのものを体験することができます。スタジオ内には強烈な白色光を発する3台のライトボックスが配置され、その上に敷き詰められた、極小の球体オブジェがライトボックスのわずかな傾きの変化により、様々な振る舞いを見せます。明滅を繰り返すライトボックスによりあぶり出されるそれぞれの球体は、時に球の集合としてまた、個別の球として相互に影響しあいながら複雑な振る舞いを示します。ライトボックスの表面を走査する赤色レーザーは、球の挙動を感知し、そのデータは音響とライトボックスをスキャンする液晶ディスプレイの映像へと反映されます。3台のライトボックスは、内径(1m×1m)は同寸でありながら、素材や表面加工が異なる球がそれぞれに用いられ、個別な振る舞いをみせる様が見て取れます。

supersymmetry [experience]
スタジオA

池田亮司 “supersymmetry”
暗闇の中に浮かび上がる、向かい合わせに設置された左右2列、平行に配された幅20m×高0.7mの映像画面。さらにそれに平行する20台×2列のモニター群。外側のスクリーンにはイメージが行き交い、内側のディスプレイではそれぞれの動きを解析するような描写が見られます。入力されたデータを解析、解体していくそれぞれの映像のシーンは精密に構成され、映像とはまた別に並行して通過して行く音響とすべての画面が完全に同期、コントロールされています。映像として現れる、複数の移動や明滅、解析のスピードは複雑かつ高速で、この左右に構成されたインスタレーションの中で起こっている全てのことを同時に1点から把握、認識しようとする私たちの意識を解体していきます。1つ1つの映像、解析されるデータ、音の意味を追うだけではなく、映像と音響が構成する多様的平行宇宙(パラレルユニヴァース)への想像力を空間全体の認識と解像度へと拡げたとき、池田の構成(作曲)した音楽的構造に侵入することができるでしょう。ここに顕れる「音楽」は「数学的経験」という言葉があるように、数的モデルと音楽的表象との交錯点を結んでみせようとします。このインスタレーションは、今後、映像/音響コンテンツが随時アップデートされることが予定され、池田の新たな科学的、数学的関心を反映していくものとして捉えられています。