電波で観測できるという話だけではいまいち実感がわかないので、次に実際の電波を体験するためいったん屋外に出ます。今回のワークショップのために作成した、一般家庭用のBSアンテナとチューナー、そして専門の測定機器を組み合わせた簡単な測定装置を空に向けて、電波をキャッチしようというのです。
放送用の人工衛星から送られてくる電波をアンテナでキャッチしてテレビ放送を受信したり、わざと体をアンテナにかぶせて体から出る電波を観測してみました。電波の強さを線グラフに描き出す測定機器の針が上下するたびに、参加者からはどよめきが上がります。
見えないけれど、空中に漂っている電波の存在が、少し身近になったかもしれません。はじめに天気が心配と書いたのは、電波が雲によって邪魔されることがあるからです。4月2日は、曇ってはいましたが時折太陽も顔をのぞかせる薄い雲だったため、それほどは影響はありませんでした。
さて、次は屋内に戻り、ついに32mの巨大望遠鏡を動かして星やブラックホールの電波をキャッチします。藤沢先生は日本では珍しい、インターネット経由で望遠鏡を遠隔操作するシステムを作った先生です。このシステムのおかげで研究室に閉じこもらなくても宇宙の電波が観測できるのです。パソコンの画面には、電波望遠鏡を動かすソフトと、観測時点での実際の仁保の望遠鏡の映像と、電波のグラフが表示されています。参加者はこれらの実際に研究で使っているソフトを利用して、巨大な望遠鏡を動かしました。
目的の星の名前をキーボードから入力してEnterキーを押すと、とてもゆっくりですが映像の中の望遠鏡が回転しながら角度を変えていく様子がわかります。目的の星に望遠鏡が向くと、グラフの数値がぴくんと跳ね上がります。星によって電波の強さが違います。太陽に向けると、数値が振り切れてしまうほどの強い電波が観測されました。望遠鏡がゆっくりと星に向かって動いている最中も、参加者から質問を受け付けて、藤沢先生は丁寧に解説をしてくれました。地球が自転している速度に合わせて望遠鏡をちょっとずつずらしながら観測していることや、電波で観測した星を絵にするためには、その周辺を少しずつずらして観測し、数値のちょっとした違いに色を組み合わせて描いていくので、時間と手間がとてもかかる、といった興味深い話をしてくれました。今まで空想の世界でしかなかったブラックホールや超新星爆発からも電波は発生していて、その方向に望遠鏡を向けると確かにグラフは動く様子に参加者は見入っていました。「ここで興味を持ってくれた参加者が、天文学の世界に踏み込んできて、いま僕が観測できないような発見をしてくれることを期待しています」という藤沢先生の言葉に、宇宙という膨大な空間を観測する行為そのものも長い時間の中で見つめていくものなんだなと、また「時間」について思いを巡らせるのでした。
このワークショップは5月4日(祝)にも行われます。
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