「時間の積層」ワークショップ

講師:慶應義塾大学SFC 佐藤雅彦研究室
日時:2005年5月29日(日)13:00〜16:30
参加者:14名
対象:高校生

Aチーム

Aチームのまずひとつめの課題は、落下する物体が本当に加速しながら落ちているのか、という疑問をフリップブック(パラパラマンガ)作成によって検証します。落下している物体をビデオで撮影し、映像を一コマずつに分解すると、30枚/秒の静止画ができ上がります。その一定間隔の時間で移動する距離が徐々に大きくなっていくと、加速しながら移動していることが分かります。落ちている物体をフリップブックの小口の断面にくるように配置して紙を重ねれば、そのフリップブックの断面には二次曲線が現れているはず。それを確かめるために、大きさ1メートル程の紙製の黒いパイプを、3階建ての建物の屋上から落下させる様子をビデオで記録し、フリップブックを作成しました。結果は、フリップブックの小口に見事な二次曲線が見えています。数学の教科書で見かけたことのある二次曲線が、実際の映像から生み出されると、不思議と美しく見えてしまいます。


もうひとつの課題は、トンカチの回転落下運動です。トンカチのように極度に重さの偏った物体を放り投げると、どんな運動をするのか。一コマずつテレビ画面の上に軌跡をプロットしてみよう、というものです。まずトンカチを投げている様子を撮影し、その映像をプラズマディスプレーに表示し、コマ送りしながら画面にシールを貼っていきました。トンカチの柄の部分や重い部分、そしてトンカチの重心もプロットしてみました。それぞれ興味深い曲線を描いていましたが、トンカチの重心をプロットしたシールでは、先ほどの実験に続きまたまた美しい二次曲線が生まれました。トンカチのように重さの偏った物質も、重心は重力の法則通りにキレイな放物線を描いていることが分かりました。


 

Bチーム

Bチームは固定されたカメラとスリットの撮影セットを使って物体を撮影しました。スリットの後ろで、牛乳パックを回転させたり、口を動かしながら顔面を撮影したりして、そのスリットから覗いた対象物を再び貼り合わせていきます。スリットの画像を一つ一つプリントアウトして、カッターで切ってからシートに貼り付けていくと、牛乳パックや顔が、徐々に現れていきます。回転させた牛乳パックはごらんの通りねじれてしまいました。


スリットで撮影することで、牛乳パックの頂点部分と底辺部分が時間差で撮影された結果、回転運動がねじれとして表現されたのです。ポーランド出身の映像作家であるズビグニュー・リプチンスキーが生み出す映像のような不思議な効果が得られます。実は現代のコンピュータでは簡単に作れてしまう効果ですが、一コマ一コマをプリントアウトしてカッターで切って貼るという手作業を通してこの画像を得ることが、体験学習であるワークショップの最大のメリットです。参加者は、どうしてこういう視覚効果が生まれるのか、ということを実感を伴って理解していきました。

 

Cチーム

CチームはBチームの発展型であるスリットガンと呼ばれるカメラで、様々な場所でロケ撮影を行うことになりました。ドアを開けて入ってくる人を撮影した映像と、電柱の周りをぐるりと回る人物の撮影をして、それぞれ一枚ずつ画像を作りました。横長のスリットを、縦方向に動かしながら撮影すると、対象物の上部と下部に時間差が生まれて面白い効果が出ました。カメラにアームで取り付けたスリットは、どこにでも移動しながら撮影できるのが便利。このカメラでいろいろな場所で一日中撮影をしたくなります。でき上がった画像はこちら。しまった状態のドアを開けて、再び閉まるまでを撮影すると、こんな不思議な画像ができました。回転している人物も、電柱に巻き付いているようです。


 

Dチーム

Dチームは、おそらく世界初となる放物線の落下実験。時間経過と物体の位置を表している二次曲線のグラフを自由落下させ、スリットを通して撮影するというもの。ごらんのように放物線を描いたパネルが自由落下します。結果はプリントアウトのサイズが小さかったため、手作業で一定の細さに切るのが難しく、少しゆがんではいますが、元の放物線が直線になってしまいました。参加者は曲がっていた線がまっすぐ並んでいく様子にびっくりしたもよう。「頭では分かっているつもりだったけど、実際に並ぶと感動しました」という感想を語っていました。もう一方の等速回転運動の実験では、黒い棒を円に沿って一定の速度で回転させている様子を横から撮影してフリップブックを作り、棒の部分を断面にする、という実験。Aチームの自由落下運動と似ています。断面に三角関数で習うサインカーブが表れていました。実際の運動と、数学の教科書がリアルに結びついた瞬間でした。


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