YCAMでは、2011年度から2012年度まで「触感づくり(触感を積極的に取り込んた表現)」のためのテクノロジー開発および表現コミュニティの形成を目的として、慶應義塾大学と共同で研究開発プロジェクト「TECHTILE(テクタイル)」を実施しました。プロジェクトでは、触感を容易に表現するためのプラットフォームとして「ツールキット」と呼ばれる装置の開発を実施しているほか、大学などでのワークショップや、シンポジウムなどを開催し、触感表現に関するコミュニティを形成するための取り組みも行いました。
あるケーススタディによると、普段生きて行く上で人間は外界の認識の約90%を視覚が担っていると言われています。その後、聴覚、触覚、嗅覚、味覚と残りの約10%を分けています。しかし割合が低いといっても、どの感覚も生きて行く上では非常に大切な感覚です。
触覚について言えば、もしモノを掴む感覚が無かったら?痛みを感じれなくなったら?身体のバランスがとれなかったら?と考えてみると、生きるためには重要な感覚であることに気づきます。普段はそのありがたみに気づきにくいですが、触覚は知れば知るほど興味深い感覚ともいえます。五感のうち、もし1つの感覚を失ったら、生きている実感は今より低いものになると想像できますが、触覚ほどのその実感を担保する感覚はありません。触覚は科学的に、まだ謎多く未解明の現状です。産業や表現への応用も、経験則に基づいている段階といえます。テクタイルの活動では、可能になりつつある触覚技術を基に、未開拓のユニークなフロンティアである触覚を幅広い分野の視点を基に、発展的な議論の主題に据えることを目的としています。「触感」というキーワードは、触覚を中心に、諸感覚や記憶、言語などを統合した主観的な質感(クオリア)をさす単語として触覚と区別して私たちは使っています。触感を想起させる方法は身の回りにあふれています。小説での巧みな描写だけでなく、まっさらな新雪を踏みしめる様子、もしくは、黒板をツメでひっかく感じという言葉で、自分が歩いた時の感触を思い出したり、教室で経験したあの光景を想起できます。CMで使用される映像表現で優れたものは、見ただけで冷たさ・温かさの皮膚感覚を上手に想起させ、購買欲をかき立てます。ふわっとしたティシューペーパーやみずみずしい水滴が滴る様子は触感的表現の例と言えるでしょう。このように、たとえ実際に触れなくとも触感を想起させることは可能です。このように触覚を用いた表現を行なう時に、実際に触る指先の感覚のみ意識するのではなく、頭の中に立ち現れる「触感」を意識すべきだと私たちは考えています。体験は単一の感覚ではなく諸感覚を統合した結果、得られるという視点に立つことで、ウナギのように捉えどころの難しい触覚自体をより良く知るだけではなく、豊かな広がりを持った触感的表現についても考えられるようになります。
山口情報芸術センター[YCAM]共同研究開発プロジェクト
TECHTILE
研究開発:仲谷正史、南澤孝太、筧康明、太刀川英輔、白土寛和、山岡潤一、小原亘、YCAM Interlab
主催:公益財団法人山口市文化振興財団
後援:山口市、山口市教育委員会
平成24年度文化庁地域発・ 文化芸術創造発信イニシアチブ
共同開発:YCAM InterLab
慶應義塾大学環境情報学部筧研究室
慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科舘研究室
協力:JST-CREST「共生社会に向けた 人間調和型情報技術の構築」研究領域
多摩美術大学情報デザインコース
企画制作:山口情報芸術センター[YCAM]