RAMとは

“RAM is Food for Thought”

創造的なダンスのアイデアのための反応装置RAM

ステージを外部から俯瞰している演出家や振付家の視点を一旦無くしてみるとき、コンテンポラリーダンスにおけるダンサーは、舞台上で何を思考して次の動きを選んでいるのでしょうか?ダンサーが身体のレベルで把握している情報については、今までほとんど言語化されてきませんでした。ダンサーが周囲の環境から情報を受け取り、それにどう反応(react)するかという「ルール」をつくることをダンスとして仮定したとき、ダンサーがイメージする環境によってダンスは異なり、環境の中で自分をどう位置づけるかによってもダンスは異なってくるはずです。

RAMではダンサーという存在を、振付家によって予め決められた振付を再現する存在ではなく、環境の中で主体的に情報を発見し、豊かな動きのイマジネーションを見出していく存在として規定しており、そのための〈反応装置〉(=知覚と思考のツール)をダンサーにもたらすことを目的としています。具体的には、オリジナルのツールキットとハードウェアによって、ダンスのアイデアをより刺激するための環境を仮想的に設定し、ダンサーがそれに反応して動くことによって、さらに環境自体が生成的に変化していく、という相互関係をつくりだします。

 

ダンスとテクノロジーが生み出す新たな〈ダンス〉

人間は鏡をはじめ、写真や映像などのテクノロジーを利用することで、身体を含めたものの動きを捉えてきました。80年代以降、急速に進展する映像技術の高解像度化、そしてコンピューターを中心にめまぐるしく更新するバーチャル・リアリティ技術や3DCG技術などのイメージングテクノロジーによって、動きを見つめる人々の眼差しは、さらに大きな変容にさらされています。そうした変容を反映するかたちで、ダンス作品やその創作方法は試行錯誤を繰り返しながら変化を重ねてきました。

振付家のマース・カニンガムは、振付をシミュレートすることができるソフトウェア「Life Forms」の開発に1989年から関わり、それを利用した作品を多数発表しました。また、インタラクティブな映像やサウンドを生成するためのソフトウェア「ISADORA」は、アーティストでプログラマーのマーク・コングリオが、自ら主宰するダンスカンパニーの演出のために開発したものです。また、振付家のウィリアム・フォーサイスは、ドイツのメディアアートセンターZKMとのコラボレーションを通して、1999年にCD-ROM作品「Improvisation Technologies: A Tool for the Analytical Dance Eye」を発表しています。これは仮想のオブジェクトに対して多様なムーブメントを発想するなど、フォーサイスのダンスメソッドを、CGを駆使して体系的に紹介するものです。

このようにテクノロジーの進展にとともに、様々な目的を持ったプロジェクトが、アーティストと技術者のコラボレーションの中から生まれてきました。こうした系譜の延長線上に、RAMは位置づけられます。

 

RAMの仕組みと特徴

モーションキャプチャーシステム(慣性式・光学式の2方式を設定)、また「Microsoft Kinect™(以下、Kinect)」などを使用して、ダンサーの動き(モーション)を検出し、環境からの応答を様々なアウトプットに変換してダンサーに伝えることが出来ます。これらの処理が全てリアルタイムで行われることで、ダンサーが視覚、聴覚、触覚刺激などの情報を受け取り、次の動きを生み出すルールを自ら創りだしていくことを促します。

 

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図1)RAMシステム概念図

 

RAMでは、ダンスを扱うために、特定のアプリケーションをつくるのではなく、クリエーションにおいて柔軟に対応できるようなツールキットを制作するという発想に至りました。

RAMの特徴は、プログラミングを通して通常はダンサーの意識の中で設定されている<環境>を言語化=外在化しようとすることにあります。それによって、ダンサーは環境からのリアルタイムのフィードバックを観察しながら、よりさまざまなアプローチを具体的に試みることが出来るようになります。

さらに、オリジナルのツールキット「RAM Dance Toolkit」と慣性式モーションキャプチャーシステム「MOTIONER」を開発し、それらをオープンソース化することによって、今後さらに増えていくであろう、ダンスを創作するプログラマーや、ソフトウェアを扱うダンサーたちがコラボレーションをするためのプラットフォームを提供します。RAMによって、クリエーションに関わる人たちが、<環境>を検証しながらすばやくトライ・アンド・エラーを繰り返すことができるようになり、それは、課題をクリアにし、深く取り組めるようになることを指しています。

 

RAM Dance Toolkit

RAM Dance Tookitはクリエイティブコーディングでダンスのための環境を作り出すC++のツールキットです。GUIと、ダンサーのモーションデータにアクセス、解析・利用するための機能を備え、プログラミングを使って様々な環境条件(「シーン」と呼びます)を設定し、ダンサーに対するリアルタイムのフィードバックをシンプルな手順で作り出す事ができます。このツールキットはアーティストのためのソフトウェア開発環境であるopenFrameworksをベースとして開発されており、ユーザーは両方の機能を使用する事ができます。また、RAM Dance Toolkitはプログラミングを必要としないアプリケーションの形でも公開します。アプリケーションを使って、YCAMで開発された既存のシーンを使って振付やトレーニングをおこなうことが出来ます。

 

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図2)RAM Dance Toolkitシステム図

詳細な情報はRAM Dance Toolkitのページをご参照ください。

 

シーン

RAM Dance Toolkitのアプリケーションに最初から含まれているシーンをいくつかご紹介します。シーンを通して、ダンサーの身体のイメージやダンサーと空間との関係性を変更したり拡張したりすることで、ダンサーがそれまで無意識に持っていた感覚や状態を見直したり、新しいダンスのアイデアを刺激します。

「Future」
数秒前の過去から現在までに動いた量や方向を解析し、近い未来の自分のポジションを推測して表示します。

「Monster」
ダンサーの身体の部分ごとの長さや繋がり方を、実際とは異なる方法で表示します。

「Expansion」
画面上に表示されるダンサーの関節部分を、身体の外延に拡張して表示します。

「Chain」
ダンサーの身体の部分に鎖状のものを取り付けることが出来ます。また、重力の方向と度合いを設定することが可能で、鎖は設定された値に従った物理計算にのっとって動きます。

「Upside –down」
ダンサーの身体を上下反転させて表示します。身体の部位の中で一番床から遠い点を、床に見立てて表示します。左右の壁なども床面に変えることが出来ます。
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MOTIONER

MOTIONERはRAMプロジェクトの一環として制作されたローコストの慣性式モーションキャプチャーシステムです。MOTIONERを使用する事で、身体の動きをキャプチャー/記録/再生し、そのデータをOSC(Open Sound Control)メッセージで他のアプリケーションに送信する事ができます。送信されるデータはopenFrameworksをベースとして開発されたRAM Dance Toolkitや、OSCをサポートする多くのクリエイティブコーディング環境で使用する事が可能です。MOTIONERは安藤洋子(ザ・フォーサイス・カンパニー)をはじめとするダンサーとのコラボレーションの中で開発されました。その結果、MOTIONERは軽量で、使用者のストレスが少なく、レイテンシーの少ないシステムになりました。また、慣性式システムの特徴として、衣類の内外を問わず使用する事ができます。さらに、MOTIONERと組み合わせて使うストラップ式のセンサー取り付け具をデザイン。体型にかかわらず、効率的に動きを計測する位置にセンサーを装着できます。
 
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詳細な情報はMOTIONERのページをご参照ください。

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