電話での会話での際、相手からの返答が一定時間以上遅れると、会話がひどく困難になります。また、しゃべっている自分の声を、数百ミリ秒から数秒遅れて聞かされると、やがてちゃんとしゃべることができなくなってしまいます。われわれの会話は、とても微妙な時間的制約条件の下で成立しているのです。
テレビやコンピュータのディスプレイは、十数ミリ秒ごとに書き換えられています。書き換える度に提示する映像を少しずつ変えると、人間の観察者には、映像が動いているように見えます。ところが、1枚の映像の提示する間隔をどんどん長くしていくと、やがてスムーズな動きは見えなくなってしまいます。また、1枚1枚の映像を提示する間隔が短すぎても、動きは見えません。スムーズな動画像を見せるためには、人間の視覚の時間解像度に合わせた画像の提示が必要なのです。
地上での光と音との伝達速度は異なります。光の速度は秒速3億メートルであるのに対し、音は毎秒330メートルで進みます。ところが、人間の視覚情報処理は、聴覚情報処理よりも約40ミリ秒程度遅いのです。そのため、たとえ光と音が同時に発せられた場合であっても、その光と音が約12メートルよりも近い距離で提示された場合には、音の方が先に提示されたように感じられることになります。視覚だけ取り上げても、運動の情報処理は色の情報処理より遅いので、映像の運動方向と色を同時に変えた場合、色が運動よりも先に変わったように見えることになります。
これらの例は、言語や映像を用いたコミュニケーション、事象の同時性の体験が、人間の情報処理における時間的特性に合わせて、時間的デザインを必要としていることを意味します。
また、社会的生活を送るためには、毎日、毎週、毎月の行動のスケジュール設定や人生設計、つまりは時間的デザインが必要とされます。持続的社会を確立するためには、人類自体が環境保全や資源の使い方における時間的デザインを要求されているのです。
(一川 誠)