人間の視覚系においては、網膜に刺激が与えられてから知覚が成立するまでに約100ミリ秒(0.1秒)の遅れがあります。でも、普段の生活でこのような遅れに気付くことはありません。これは、視覚情報処理の遅れが様々な仕方で補正されているためだと考えられています。たとえば、動いている刺激については、視覚情報処理の遅れを補正するために、約100ミリ秒だけ未来が見えるような「つじつま合わせ」的処理がおこなわれていると考えられています(フラッシュラグ効果)。また、人の視覚体験において、時間の流れは一様ではありません。視覚的時間の流れは処理対象の諸特性により変化しています。例えば、色彩や形状が同時に変化しても、それらの処理に要する時間は同じではないので、色彩と形状の変化は少しタイミングがずれて体験されるのです(高速系列提示)。視覚的時間は、高コントラストや予告刺激提示によって速められもします(フットステップ錯視、線運動)。
(一川 誠)
[サイエンティフィック・アドバイザー]
一川 誠/山口大学時間学研究所
[クリエイティブクルー]
福田 桂/maf*maf
[グラフィック・デザイン]
大内 修/nano-nano graphix
■アドバイザーからのブックガイド
「時間の矢、生命の矢」
ピーター・コブニー、ロジャー・ハイフィールド著/野本陽代訳
(草思社)
「皇帝の新しい心」ロジャー・ペンローズ著/林一訳(みすず書房)
「心身問題と量子力学」
マイケル・ロックウッド著/奥田 栄訳(産業図書)
「意識の中の時間」
エルンスト・ペッペル著、田山忠行、尾形敬次訳(岩波書店)