「家具の音楽」を提唱したエリック・サティが、1895年に作曲したといわれる謎のピアノ曲「ヴェクサシオン」は、反復音楽の元祖といわれています。1分ほどの短い音列と和音を、840回繰り返すという作品ですが、この展示では反復の方法を少し変えています。まず原曲のフレーズを、シーボルトが1828年に山口にもたらしたという日本最古のピアノ(山口県萩市・熊谷美術館所蔵)を使って演奏・録音し、スピーカー再生します。そこで周囲の環境ノイズも含めた全体のホール音を再録音し、コンピュータによって自動音符認織〜再楽譜化します。その楽譜をもとに、コンピュータがデータとして用意しているピアノの全鍵盤音から演奏を構成し直し、再再生していきます。その場の皆さんの声や自然音が加わることによって、「ヴェクサシオン」はプログラム上のフィードバックループを通じ、しだいにその姿を変容していくのです。時代を超えた彼方から響くピアノ音が、歴史の時間の厚みを感じさせ、また繰り返す時間の連鎖が、思考の反復と差異を促します。
[アーティスト]
毛利悠子 、三原聡一郎
[企画協力]
安原雅之/山口大学時間学研究所
[ピアノ演奏]
徳冨聖子
[製作協力]
YCAM InterLab
[協力]
澄川弘一、熊谷美術館