心的経過時間は神経生理学的な興奮の程度と対応して早くなります。身体外の対象からの刺激が極度に制限される無響空間では、通常よりも神経生理学的興奮が低下するのです(低下しすぎて眠ってしまう人もいるでしょう)。この場合、経過時間は短く評価されます。他方、人間には時間経過に注意が向けられるほど時間を長く評価する傾向があります。刺激が制限されている無響空間では、ひとたび時間の経過に注意が向けられると、注意はそこに固着しやすいのです。その結果、時間の経過は通常よりも長く感じられることになります。無響空間では、神経生理学的興奮の低下と時間経過への注意の振り子のあいだで、普段とは異なる時間経過を体験できるでしょう。
(一川 誠)
[サイエンティフィック・アドバイザー]
一川 誠/山口大学時間学研究所
[クリエイティブクルー]
flow [田中陽明 + 瀬藤康嗣]
[協力]
若林音響株式会社、有限会社さいとう工房
■アドバイザーからのブックガイド
「時間の矢、生命の矢」
ピーター・コブニー、ロジャー・ハイフィールド著/野本陽代訳
(草思社)
「皇帝の新しい心」ロジャー・ペンローズ著/林一訳(みすず書房)
「心身問題と量子力学」
マイケル・ロックウッド著/奥田 栄訳(産業図書)
「心理的時間」松田文子ほか編著(北大路書房)